鬼の生き様
子供達は、歳三に朝餉(あさげ)を抜くように言われていて、今にも腹と背中が引っ付いてしまうほど、空腹を感じていた。
目の前にやってきた馳走を見て、子供達は飢えきった痩せた犬が不時の食にありついたかのように、がつがつとたちまちの間に平らげていく。
「さて喜六や、この賭けは俺の勝ちだ」
その様子を見ながら、為次郎はニヤリと微笑むと、喜六は観念したかのように黒砂糖を為次郎に手渡した。
今日の歳三の働きぶりを、為次郎は嬉しそうに語り、喜六の顔は眉をひそめながらも心は嬉しがって顔一杯に艶々しい色が漂っていた。
歳三は子供達と離れ夕餉をとっていた。
膳部には米と味噌汁のみが置かれている。
「なんだいお前は“四番隊”かい?」
喜六はそう訊くと、歳三は首を振った。
「いや、俺はあくまでも指揮をとったまで。
なんも動いちゃいないよ、だからあいつらと同じものを食うのは道理に合わない」
歳三は照れ臭そうにそう言うと、米を掻き込んだ。
「為次郎兄さんから聞いたぞ。
お前の働き見事だったってな。
お前の知恵が無けりゃ、こうはならない。
兄ちゃんは正直お前がしっかりやってるか疑っていたが、それは間違いで悪かった」
歳三はこそばゆい感覚に襲われた。
「よし、お前に報酬を与えよう」
喜六はそう言うと、橋本家の沢庵を渡した。
歳三は思わず「やった!」という歓喜の声を上げ、歳三の歓声は滑稽な残響となってこだました。
(まだまだ子供だな。
しかし歳三には驚かされたなァ)
喜六はパリパリと音を立てながら、大好物の橋本家の沢庵を貪り食う歳三の姿を見て、この日の勇姿をそっと胸にしまい込んだ。