鬼の生き様

 翌日は歳三は山南と茶屋へと出向き、浪士組の行く末について語り合って居た。

「俺はこの京都残留組で新党を作りたいと考えている」

「新党と言いますと?」

「近藤さんを筆頭とする武士集団だ。
このまま雇い主が居なけりゃ、京の都で食いっぱぐれちまう」

山南は頷いた。
しかし何をすればいいのかは分からない。
左之助の言う通り京へと来たというのにやる事もなく、このままでは江戸にいた頃より無為な日々を送る事となってしまう。

名もなき浪士達に取り入ってくれる幕臣や藩がはたしているのだろうか。
ましてや、浪士組は清河の策略によって作られ、幕臣達からすれば、裏切り者の危険な部隊である。

「やはり昨夜の清河の件だが、それを利用させて頂こうじゃねえか」

「清河さんを斬るのですか?」

声を低くしそう山南は訊いた。
山南も尊皇攘夷の思想は清河と同様に強く、なおかつ同門のよしみでもあり、その清河を裏切者だとしてと斬るとしたら気がひける。

「いや、近藤さんが奴を生かしたいなら俺は斬らねえ。
誅戮(ちゅうりく)したとしても、誰がやったかバレちまったら烏合の衆である俺達に新党の結成は難しくなるだろう。
浪士組に関わった幕臣で清河に一番強い反感を持っている者に取り入るんだ」

「…佐々木さんではありませんか?」

幕臣の佐々木只三郎である。

「あぁ、佐々木に清河暗殺をすると匂わせて、俺達は幕府の味方である事を示させる」

まだ東下が決まったわけではない。
只三郎や鵜殿鳩翁たち幕臣は京にいる。
早速二人は只三郎と鵜殿鳩翁が寝泊りをしている新徳寺に向かった。

「これはこれは、試衛館の土方殿と山南殿ではあるまいか。
一体如何なさった?」

鵜殿鳩翁が出迎えてくれて、内密に只三郎と面会をしたいと求めた。
只三郎がしばらくするとやって来た。

「御足労かけて申し訳ありません。
実は私達は清河先生の野望に怒り心頭でござります」

歳三はそう言うと、只三郎も同じ気持ちだと言い続けた。

「清河八郎の目論見は我等幕府にとっても毒になるだろう」

「私もそう思います。
毒は早めに取り出さないと全身に回る。
私達はその毒を取り除きたいのです」

「清河を斬るのか」

「えぇ、私は多摩の天領の地で生まれ育ち幕府への想いは近藤を筆頭に私達も強い。
今後は京に残り、天誅と称し乱暴狼藉を働く不逞の輩を取り締まり、市中警固に勤しんでいきたいのです。
まず手始めに、裏切者の清河八郎を斬る」

「その心意気見上げたものだ。
して要件というのは、清河の暗殺の旨を伝えにわざわざ来たというのか?」

「いえ主人がほしいのです」

なるほど、そう只三郎は言った。
天誅の嵐の吹き荒れる京にて、上洛した時の足利三代木像梟首事件で松平容保が心病んでいる事を只三郎は分かっていた。


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