鬼の生き様
「いいかい、こんな立派なお店(たな)に奉公できた事をありがたく思わなくちゃいけないよ。
そうでなければ、お前は多摩の田舎で畑の土や田んぼの泥にまみれた薄汚い一生を過ごさなきゃならないんだからね」
番頭は口癖の様に歳三にそう言い聞かせていた。
歳三は石田村では“お大尽”と呼ばれているほどの豪農であったが、番頭にとっては歳三などは、多摩の田舎の百姓の子にすぎなかった。
だから、江戸でも指折りの大店(おおだな)の奉公人になれたことは、たいした出世なのだ。
(くそ、偉そうにしやがって)
負けん気の強い歳三は、頭にきたが相手は店の主人の次に偉い番頭だ。
悔しさで奥歯がこんなになるほど歯を食いしばり我慢をした。
(いつか絶対に一泡吹かせてやる)
自分の無力さが余計に腹にたった。
しかし、その我慢も長くは続かなかった。