鬼の生き様


 殿内は旅装束で誰かを待っているようだ。
芹沢は殿内に気がつくと鯉口を切り忍び寄った。
その足音に気が付いてか、殿内は「家里、厠早かったな」と声を発したが、忍び寄る陰が家里ではないと気がつくと、アッと声をあげたがその刹那、芹沢は鞘を払い殿内の頭上を斬ると、断末魔の叫びをあげ、その声を搔き消すように芹沢は間髪を入れずに袈裟に斬った。

バタリと殿内は斃れた。
即死である。

「……!? 芹沢先生、何故殿内を?」

平間重助は恐る恐る聞くと、芹沢は

「この外道は吉村寅太郎なる過激な連中と繋がりを持っていたらしい。
旅支度をしていたという事は、同志を集いに行こうとしたに違いない。

そう言いながら懐紙で血糊を拭きそれを鴨川へと捨てた。

「俺が斬ったなんて、近藤さんや他の連中には言うなよ」

ギロリと睨みをきかせて芹沢は言うと、一同は少し青ざめた顔で頷いた。

(家里次郎も殿内の仲間か)

吉村寅太郎の件は歳三から聞かされていた。
近々、きっと仲間を集めに屯所に出て壬生浪士組を過激な集団に変えていく恐れがあるやもしれん、と。

「気分が悪い、祇園までは目と鼻の先だが壬生村に戻って飲み直すぞ」

芹沢はそう言うと、殿内の屍を見て見ぬ振りして立ち去った。
殿内も何故四条大橋に立っていたかというと、これも歳三の描いた絵で、前日に山南が手を打ったのである。


 前日の夜の事である。

「実はですね私、壬生…いや精忠浪士組の隊長には殿内さん以外考えられないのです」

山南は殿内にそう言うと、殿内は気分良さそうに、ほう。と一言言った。


「芹沢のような乱暴者、そして近藤のような百姓上がりではなく、文武兼備の貴方を慕う同志を内密に集めて、力を誇示させるのです」


共に隊士を募集しに行こう、との山南の提案に殿内は意図も簡単に乗っかった。
待ち合わせの場所はこの四条大橋であり、家里と共に山南を待っていた。

山南は悟られない様に壬生狂言が終わってしばらくしてから行く、と伝えており、家里が用を足しに厠へと行っている最中に、殿内は永遠の旅に出かけた。


殿内は壬生浪士組の最初の粛清者となった。


 役人曰く下手人は今現在、誰だか分かっておらず、平間は勿論、佐伯も新見錦、平山五郎、そして野口健司も誰一人として口外をするはずがなかった。
しかし組内では殿内殺しの下手人はすぐに検討がついた。


__芹沢鴨に違いない。


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