鬼の生き様

 六月の大坂力士との乱闘で芹沢は、小野川部屋の大坂相撲で中頭の熊川熊次郎を、斬り殺した前科が芹沢にはある。

この相撲興行は歳三の考えのもとで行われた。

「これで芹沢より近藤さんの評判はうなぎのぼりになるだろう。
いいか、京の人達にも、壬生浪士組に良い印象を持たせる絶好の機会だ」

京相撲と大坂相撲の力士達は、以前から仲が悪かったようで、この興行をキッカケに和解させて、両相撲に借りを作ろう歳三は考えていた。

当日は隊士達は木綿の黒羽織と白袴で出動しており、警固にあたっている壬生浪士組の一同を芹沢がみると、どうもヒソヒソ話が始まる。

「佐伯は来ているか?」

まさか隊内で恐れられている“暴漢”であり、筆頭局長でもある芹沢に話しかけられるとは思っていなかったが、平隊士は硬直し、首をわずかに横に振るばかり。

「来ていないのか。お主らも“妙は噂”を聞いたからといって、人を判別するのはよせ」

芹沢はそう言うと、我が物顔で会場へと進んだ。
大勢の人々が集まり、会場は賑わっている。

新見は癇癪を起こしたような態度を見せた。

「なにを苛ついているんだ」

「これじゃあ壬生浪士組は近藤達のモンになっちまう」

「良いじゃないか、自分から動く神輿などがあるものか」

芹沢は相撲の光景を意気揚々と見ていたが、新見が帰る、と言い出した。

(土方だ……。あいつを侮ってはならん。
あいつは近藤を祀り立てる為にはどんな手だって使うだろう。
それは俺とて同じ事さ…芹沢さんの為ならなんだってしてやる)

新見は勇の隣で相撲を見ている歳三に対して、暴悪であり憎悪の念が頭に沸いていた。


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