鬼の生き様

 冬の宵のしんしんとした凍てた空洞のような静謐なひと時、縁側に座り歳三は冬の空を見上げていた。

凍てつくような寒さが、今は心地が良い。


 奉公の件が応えているのだろう、胸が空っぽになるような喪失感に悩まされていた。

「今夜は冷えやがるな」

彦五郎はそっと背後から忍び寄り、歳三の隣に座った。

「こういう冷える夜にゃ、熱燗が一番だ。
一緒に呑むべ。心も身体もポカポカするぜ」


歳三は最初は断ろうとしたが、猪口を受け取った。
酔ってしまって忘れてしまいたい。
歳三はクイっと呑んだ。


「いいかいトシ、話したくねぇ事は話さなくていい。
どうせお前の事だ、店先の女でも喰っちまったんだろ」

彦五郎はそう言うと、酒をチビチビと呑み空を見た。
いい空である、空気は澄んでいて星が散らばり月が出ていた。

「彦義兄、俺ァ一体、何がしたいのかも分かないんだ。
天下太平の平和ボケした世に、ガキん頃から武士になると夢見ていたが、時代が剣を求めていない。
そうなってしまうと俺は百姓の倅として一生を終えてしまうのかな」


「いつかその剣が必要になる世が来る。
今はその準備期間で良いんじゃないか?」


彦五郎はそう言うと、歳三に徳利を向けたが思い返したのか彦五郎は注ぐのをやめ、それを引っ込めた。

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