鬼の生き様
翌日、日野宿はいつにもまして人が集まっていた。
歳三は何事だと思い部屋から出ると、庭先には道着姿の男達が集まっていた。
「ノブ姉、何かあったのか?」
歳三はトクに問いかけた。
「彦五郎さんね、あの火事から武芸を身に付けないとって剣術を始めたのよ。
それで出稽古用に道場まで作っちゃって」
歳三は外を見ると、昨日はもう暗くなっていて気が付かなかったが、東側の一角に道場が建っていた。
「うわっ、本当だ」
「今日が出稽古の日で、天然理心流の先生方がお見えになる日で、集まってる人達はみんな門人なのよ」
彦五郎が昨夜紹介したいと言っていた人物は、道場の先生の事であったのだ。
歳三は納得したように周りを見渡していた。
「おぉ!トシ!
ここに居たのか」
彦五郎も道着姿になって、歳三に向かって手を振った。
彦五郎の後ろには還暦を迎えそうな老軀の大先生と、歳三と同い年ぐらいの腕っ節の強そうな青年が居た。
「先生方、紹介致します。
義理の弟の土方歳三です」
歳三はぺこりと頭を下げた。
「天然理心流、江戸試衛館、当主の近藤周助と申します。
それでこっちは門弟の島崎勝太(しまざきかつた)です」
島崎勝太と名乗る青年は、歳三の一つ年上で、目は小さく口の大きな青年であった。
しかし立ち振る舞いは堂々としており、精悍な顔つきは剣術の強さを物語っていた。