鬼の生き様
「始め!」
周助の声が道場内に響き渡ると同時に、二人は間合いをとり、勝太の甲高い気組が道場内に響き渡った。
気組と、面の物見から見える勝太の鋭い目に、恐怖が激しく胸の底で蠕動した。
竹刀が真剣に見えるような錯覚に陥り、まるで鬼でも見たかのように怯えた。
いや、もはや島崎勝太という男は一匹の鬼だ。
そう思った刹那、勝負はついていた。
電光石火の如く歳三は面を撃たれた。
「それまで!」
竹刀の乾いた音が木霊した。
まったく歯も立たなかった。
もはや動くこともままならず、試合は気が付けば終わり、厭な汗が背中を伝っていた。
初めて負けという雪辱を味わった歳三は、悔しさのあまり道場を飛び出した。
井戸から水を汲み上げ、頭から水をかけると漸く試合の事を思い返す事が出来た。
殺気立った勝太の顔。
一分も隙を見せない姿勢。
そして腹の底へと伝わる気組。
完敗である。
「歳三くん」
勝太は心配して、歳三の様子を見にきた。
「天然理心流は実戦向きの剣法だ。
きっと歳三くんの実力が活かされる剣術だと思うぜ。
どうだい、一緒にやらねえか?」
勝太はまた笑窪を見せて笑った。
試合の時の恐ろしい勝太は今や何処にもいない。