鬼の生き様


 しかし門人達は、手のひらの汗まで分かるような焦り方をしていた。
その様子を見て歳三は奇妙な焦燥に駆り立てられた。


「今度のは只事ではないんです!
江戸の目と鼻の先に軍艦で押し寄せて来ているんですよ。
江戸中の各藩はもう、蜂の巣をつついたような大騒ぎで品川の方では戦仕度をして躍起になっているんです!」


とても稽古どころではなかった。
勝太は周助の顔を窺うと、周助も頷いた。


「本日の稽古はこれまで!
俺は黒船を見に行くが、皆は行くか?」


 試衛館の面々は興味ありげに頷いた。
黒船が来ると話は聞いても、見た事はなかった。
惣次郎に関しては、遊びに行くような気分で行きますと手を挙げた。
勝太は周助の顔を見たが、周助は首を横に振った。


「俺はいいよ、お前達で行っておいで」

「義父上も是非ご一緒に」

「嫌だよ。
とくに興味ねえし、もう六十過ぎているんだぜ俺ァ。
歩くのだってかったるいべ」


若者達で行ってこい、と周助は言うと自室へと戻ってしまった。
大先生である周助がそうなると、さほど興味のない門人達は、俺もいいやと何名か理由をつけて行かない者も現れた。

< 52 / 287 >

この作品をシェア

pagetop