鬼の生き様

 歳三も蕎麦をすすった。

「天下の北辰一刀流、それも大千葉で学んだ人と、是非一度お手合わせ願いたいものですね」

歳三はそう言うと、何かを企んでいるようなニヒルな笑みを浮かべた。

 大千葉とは、千葉周作の玄武館の事である。
小千葉と呼ばれる道場もあるが、それは千葉周作の弟である千葉定吉の開いた桶町の八重洲にある桶町千葉道場の事だ。

「よほど腕に自信がおありで」

「ただの薬屋だと思って、甘く見くびられては困る」

「あなたは面白い人だ。
是非、試合ってみたいものです」

「なんなら今からでも。
このように剣術道具はいつでも持ち歩いております」

歳三はつづらを叩いた。
山南も今、自分の剣術の腕がどれほどのものかを試してみたかった。

「いいですね。
あなたの名は?」


「土方歳三」


「土方くん、それでは昼餉が済んだら道場へ向かいましょう。
今日はもう稽古は終わりましたので、若先生に道場をお借り致します」

 千葉周作は安政二年(1855年)の暮れに亡くなり、その後は次男の栄次郎が継いでいた。
蕎麦は歳三の思った通り、山南が馳走をしてくれ、二人は玄武館へと向かっていった。

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