君への心
「綺麗」

「まさに新築って感じだな」

私達は奈々香の家に来ていた。

「あはは。そんなことないよ」

「いや、本当に凄い」

綺麗なダイニングに、綺麗なステンレス製のキッチン。大きなリビング。そして、奥の庭には海人の練習道具(バッティングマシーンや、マウンド)、横に行くと大きな白いベッドが置いてある寝室。

「白くて清潔感のあるお部屋だね」

「うん。白が私の一番好きな色でさ。海人がじゃあ白い部屋にしよっかって」

「さすが海人。奈々香に甘い」

「あはは」

部屋の中を見ていると、潤が突然思い出したように、

「そういえばファンレターは?」

部屋に圧倒されてて忘れてた。そういえばそんなこと言ってたなぁ。

「そうだ。2階にあるから二人ともついてきてくれる?」

「うん」

私達はリビングの隣にある階段から二階に上がり、階段から真っ直ぐ行ったところにある部屋にたどり着いた。奈々香が部屋の鍵を開けると壮絶な光景が広がった。

「ちょっと待ってこれどうなってるの?」

部屋の半分が段ボールに埋め尽くされていた。

「あはは。凄いでしょ?これ全部ファンレターよ」

「なんでここまで有名に。海人ってルーキーだろ?」

「甲子園で有名だったからその分もあるからなぁ。高校時代のファンレターは引越しの時にすべて処分したんだけど、キャンプから3ヶ月くらいでこの有様」

「これでどれくらいの量なの?」

「うーん。1ヶ月でトラック5台分で…」

ん?今奈々香なんて言った?なんか得体の知れない言葉が聞こえたような…

「今なんて言った?」

「へ?」

「ファンレターの量よ」

「1ヶ月でトラック5台分?」

「ト…トラック5台分…」

私達は信じられなかった。トラック5台分ってもはやアイドルじゃん。ん?でもそれで3ヶ月ってことだからトラック10台分ってことだよね?トラック10台分のファンレターだったらこれくらいの量じゃ済まないはず。この中にあるのは多くてもトラック2台分ほど。じゃあほかのファンレターは?

「奈々香、残りのファンレターはどこにあるの?」

二人はきょとんとする。でも、奈々香は私が言ったことにすぐ反応した。

「やっぱり奏は気付いちゃったか。流石にトラック10台分のファンレターは家の中に入らないよ。ここにあるのはその中のごく一部。量的にはトラック1台分くらいかな。後は全部球団の事務所に置いてあるよ」

「すげーな。海人って」

「うん。まあ、でもここまでファンレターをもらうのは海人だけだと思うけどね」

海人のこと、改めて凄いと思った。そりゃ、海人はイケメンだし、優しいし、いい投手だし、いい選手だけど、ここまでルーキーで注目されるというのは並大抵のことではない。凄いな。海人…

「さ、お風呂入って寝よ。夜遅いんだから。奏は私の寝間着を貸すよ。下着は…」

「それは大丈夫。こういうこともあろうかとちゃんと下着を持ってきてるんですね」

今日の試合はナイトゲーム。多分何処かに泊まることになるだろうと思っていた。だからとりあえず下着だけ持ってきていた。あと、それは潤にも伝えて持ってきてもらってる。なので潤の寝間着は海人のを借りるそう。

「とりあえず奏、一緒に入ろ」

「うん」

奈々香は体が弱いこと以外は完全無欠で、真面目な子だけど、こういう無邪気な一面も見せるんだよな。私は奈々香と1階にあるお風呂場に行って一緒に入る。

「あー、気持ちいい」

「そういえば奏とお風呂に入ったの初めてだね」

「そういえば。奈々香と仲良くなってから遊びには行ったけど温泉とか行かなかったもんね」

「あはは。でも、これからいっぱい行けるよ。いつでもうちに来てもいいし。奏、今、潤とどうなってるの?」

「恋愛?」

「うん。なんか進展あった?」

「全然。告白する気にもなれない」

「なんで?奏ってすぐ告白するタイプだと思ったけど…」

「海人の時も好きになってから告白まで5年かかってるからね。ま、あっても4年後のドラフトの後かな」

「そっか。奏の話を聞く限り大丈夫そうだね。告白出来ないのは奏の勇気がでないところかな?」

「うん。それもあるけど、一番は今は野球に専念させてあげたいと思っているからかな。夢に向かって頑張っている子を私は止められないから」

そういえば奈々香もこういうことあったって言ってたっけ。高校の時、奈々香は初恋をして、その相手が海人で…。でも、今は野球に専念させてあげたいからってずっと告白しなかったんだっけ。そう思うと高2の時に海人に告白した私は間違いだったな。

「分かるよ。その気持ち。私も同じ気持ちだったし」

「ありがとう」

私達はお風呂でたっぷり話す。

「ねえ、奈々香」

「ん?」

「奈々香はどうして管理栄養士になろうと思ったの?やっぱり海人と付き合ったから?」

奈々香は今、管理栄養士を目指して大学で頑張っている。私は奈々香にもアドバイスをもらうために聞いてみた。

「まあ、それもあるけど、やっぱり小学校の時に管理栄養士に憧れたことが一番の理由かな。小学校の給食とかの献立を考えたいって思ったんだよね。それに、管理栄養士は仕事内容によっては家で仕事が出来るから海人を支えながら仕事ができると思ったんだ。だから職業があやふやじゃなくてはっきり決まったのは高3の夏くらいなんだよ」

「それで良く東大に受かったね。東大に決めたのも高3の夏だったんでしょう?」

奈々香は東京大学、略して東大の栄養学部で勉強している。

「うん」

「すごいね」

「奏は?やりたいこととかないの?」

「特には。今はマネージャーやってるのが一番楽しいから」

「じゃあ好きなことは?昔、将来の夢とか考えたことなかった?」

そういえば小学校の時に将来の夢を考えて下さい。って言われて介護士って答えたんだよね。沢山の人を助けたいと思って。それなら医者や看護師とかでも大丈夫だけど病院関係よりデイサービスや老人ホームで働きたいって。

「小学校の時の将来、働くなら介護士って考えていた。いつからかその考えがなくなっていたけど」

「ちゃんと答え持ってるじゃん。それが奏の夢だよ」

そっか。なんで今までそれに気がつかなかったんだろう。私の将来の夢は介護士。ずっと遠ざけて来た、私の夢。それを奈々香に気づかせてくれたんだ。

「おふろ上がったよー」

私と奈々香がお風呂から上がると潤が入れ替わりで入る。

「奈々香、お水ちょうだい」

「はーい」

お風呂上がりで喉が渇いていたので奈々香が出してくれたお水を飲む。

「ありがとう」

「ううん」

「ふー」

「でもまさか奏が進路のことで悩んでるなんてね。びっくり」

「そうかなぁ?」

「だってずっと前から受験勉強していたじゃん。自分の夢を叶えるためだと思っていた」

「まあ夢っていったら夢だけど…。でもそんな仕事とかの夢じゃないけどね」

「潤の為でしょう?」

「うん」

「あはははは」

私達は盛大に笑い合う。

「ねえ、奈々香は?」

「ん?」

「奈々香は悩み事とかないの?」

「うーん。今はないかな。今は海人と同棲して、海人の側で海人を支えられるのが楽しいから」

「そっか。あー、私もなりたいなぁ。プロ野球選手の彼女に」

「潤がプロ行ったらなれるんじゃないの?」

「たしかにそうだけど、今後、潤と私が付き合っているとは限らないよ?」

「そうかな?私には二人ともカップルにしか見えないんだけど…」

潤と私が?絶対そんなことないのに…。だって潤は野球一筋だし、私だってずっと片思いだって思ってきた。奈々香は何を言っているんだろうか。

「何言ってるの?って思ったでしょう」

「なんでそれが分かるの?」

奈々香は心が読めるのか?

「奏は分かりやすいからね。なんとなく分かるよ」

私分かりやすいかなぁ。そういえばいろんな人から私は感情とか言いたいことが顔に出やすいって言われてたけど…。

「そうかな」

二人で笑った。
< 7 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop