残り100日の私と大好きな君
夢の時間は、呆気なく終わりを告げた。
ズキン…
胸に鋭い痛みが走る。
大丈夫、奏汰くんはまだ、気付いていない。
「ほら、触ってみて、巻貝。これね、耳に当てると、波の音が聞こえるの。」
そう言って、耳に貝殻を当ててくれる。
ザーーッ……ザザーッ……
繰り返す、波の音が聞こえる反面、私の胸の痛みも繰り返し、次第に痛みは強まっていく。
「そうだ!咲楽ちゃん、記念に写真、撮ろうよ!見えないけど、ちゃんと思い出の形、つくろ?」
「……ん…」
息が上手く吸えない…
でも、笑顔を作らなきゃ
たった数分だったけど、こんなに幸せな時間を、奏汰くんはくれたんだ。
私は、胸の痛みと呼吸の苦しさを押し隠して笑顔を作った。
きっと、これが最後になる。
本能で、そう察した。
無意識に、私は奏汰くんに抱きついていた。
痛い…痛い…………
「…さ……くらちゃ…………?」
みるみる、奏汰くんの声が震えていく。
ごめんね、もう少し一緒に居たかったんだけど……
「か……なた…………く…」
せめて、最後は自分の言葉で伝えたい。
今までありがとう、何ヶ月か前にあったばかりの私に、こんなに優しくしてくれてありがとう。
いつも、奏汰くんに励まされて、今まで頑張ってこれた。
奏汰くんがいなかったら、きっと、私はこんなに幸せな気持ちを感じることは出来なかった。
ワガママも聞いてくれて、ありがとう。
苦しくて、途切れ途切れになる息の中、私は力を振り絞って、精一杯言葉を出す。
「……ぃ…………ま、ま……………………で………あ……り…………………が………と……………………わ……た…し」
意識が朦朧としてくる。
奏汰くんの体温が暖かい。
ずっとずっとそばに居てくれた、この暖かさ。
もう、感じることが出来ないのは、少し寂しいけど……
私は、奏汰くんの服に頬を擦り寄せた。
また、涙が零れる。
「か……な…………た…く………………ん……の…………こ……と………………だ…………い……す………………き」
言えた。
やっと、自分の気持ち、言葉に出来た。
安心して、体から力が抜けていく。
遠くから、先生たちの声も、聞こえた気がした。