残り100日の私と大好きな君
急いで、病院のロビーを抜けて、何ヶ月ぶりかの外に出た。
「はぁ……はぁ…………焦った~、ごめん、走っちゃったけど体調、大丈夫?」
「うん…だ…………じょぶ」
そう言うと、奏汰くんは私の頭を撫でてくれた。
「久しぶりの外はどう?風、寒くない?」
「うん、きもち……いい」
車椅子はゆっくり動いて、浜辺へ向かっていく。
潮の香りと波の音が近付いてくる。
見えなくても、海は感じられた。
外は、ぽかぽかと暖かくて、ほんの少し吹いている風が、頬にあたって気持ちいい。
「咲楽ちゃん、海着いたよ。わかる?」
「…うん、なみ……………………き……こ……………え」
ダメだ、油断すると、すぐ言葉が上手く出てこなくなっちゃう。
でも、奏汰くんは、もう一度私の頭を撫でてから、小さく笑ってくれた。
「海の水、触る?せっかくだし、波の近くまで、行ってみよっか。」
ゆっくり押された車椅子が、柔らかい砂の上を進んでいく。
不思議な感じ。
ついさっきまで、病院の白い部屋の中で、固いベッドの上で、たくさんのモニターに繋がれて動けなかったのに。
今は、自由だ。
入院した時から、一度も出られなかった外にきて、点滴もモニターも酸素マスクもなく、暖かい日差しが、私と奏汰くんの二人だけをぽかぽかと照らしてくれているみたい。
波の音だけが聞こえる静かな空間は、夜の病院みたいな寂しさはなくて、不思議な安心感があった。
「咲楽ちゃん、ほら、触ってみて、海の水だよ。」
「……つ…………め…た………………ね」
「そうだね、まだ少し冷たいかも。あっ、貝殻落ちてる!!拾ってみよ!!」
「うん」
真っ暗で、怖いだけだった世界も、今は不思議と怖くない。
私と奏汰くんの二人きりの時間が、永遠に続く気がして、すごく幸せだ。
……来て、よかった。
本当に、よかった。
こんなに、……こんなに、嬉しいとは思っていなかった。
幸せ
今は、はっきりそう思える。
嬉しすぎて、また涙が溢れてくるよ。
涙って、こんなに温かかったっけ?
もう、体で感じる全てが心地よくて、ずっとずっとこのままで居たいな…なんて。