残り100日の私と大好きな君
その夜、私はさんざん泣きはらした。

意外にも涙は出た。

何も見えないのに涙は出る。

前なら泣いたら視界が滲んだけどそんなことももうない。

真っ黒で何も見えない世界。

何も見えないと、こんなに怖いんだ。

何も見えないと、こんなに音が大きく聞こえるんだ。

時計の音、呼吸の音、廊下を歩く看護師さんの足音も聞こえる。

隣のベッドで奏汰くんが寝返りをうったのか、布団の布の擦れる音が聞こえる。

布団がぶつかったのか、同時にカーテンの上の金具がカシャカシャと音を立てる。

瞼を閉じて、開けても暗い。

いつもの癖で、開けたら何かが見える気がして、瞬きをする度に期待しちゃう。

この病室には長くいるから、なんとなく、どこがどうなってるのかはわかるけど…

「咲楽ちゃん」

そこまで考えたところで急に声がして、驚きで体がビクッと震える。

「大丈夫?泣いてる声が聞こえるから……余計なお世話だったら…ごめん……」

「…………だ、大丈夫……ありがと…」

さっきの音は奏汰くんが起きた音だったんだ…

びっくりして、咄嗟に大丈夫って言っちゃったけど、本当は大丈夫なんかじゃない……

こうやって喋っている今も涙が止まってないのがわかる。

「……ギュッてしていい?…咲楽ちゃん、辛そうだから…………」

…………コクン

その言葉にまた涙が溢れる。

頑張って死ぬなら本望だったけど、この展開はさすがに予測してなかったよ…

目が見えないのも、直に慣れるのかもしれないけど、中途半端に大切なものだけを奪われたような気がして、胸がキュッと苦しくなる。

「咲楽ちゃん、何か不自由なことあったら言って?僕、全力でサポートするから。辛い時も、泣きたい時も言って?こうやって…傍にいることしか出来ないけど、少しでも力になりたいからさ。」

「…………うん…」

ギュッてされて奏汰くんの胸に顔を埋めると、温かさで少しだけ気が落ち着いた。

「咲楽ちゃん……さっきはバタバタしてて、ちゃんと伝わってなかったと思うから、もう一回言うね。…………手術、お疲れ様。よく、頑張ったね…!!よく、頑張ってくれたね…!!ありがとう」

そう言った奏汰くんの声は、少し震えている気がした。
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