それもまた一つの選択
ランチからディナーまで。
長い時間を掛けて食べ尽くし、いい加減眠くなってきたのは午後8時。
3人でいるといつの間にか時間が経っている。
こういう時間が徐々に少なくなり、今では月1回もないくらい二人は忙しい。

「さてと…」

ソファーから立ち上がった瞬間だった。
パチン、とお腹から音が聞こえた。
…何だか嫌な予感がする。

私は小走りにトイレに向かうと後ろからトキさんが凄い勢いで追いかけてくるのがわかる。
トキさんの怖いところはこういう事にすごく敏感なところ。
本気で私はトイレに駆け込み、ドアを閉めた。
便座に座った瞬間、大量の水…。
いや、普通の水じゃない。
羊水だ。

「遥?開けて」

トキさんの声が冷静すぎて逆に怖い。

「…今はダメ」

「今じゃないとダメだろ?遥!!」

ドアを強くノックされた。
蹴破られるかもしれない。

「…トキさんは私が恥ずかしいと思ってること、わからないの?」

目を半開きにして便座に座りながらドアを開けた。

「何を今更恥ずかしがっているんだ?」

トキさんはちょっと怒っていた。

「さ、今から病院へ連絡して行くよ」

おいおい。
トキさん。
トイレ内の戸棚から生理用ナプキンを数枚取り出して…。
それを当てるように言う。
何でそんな事、知ってるの?
私は知らないけど!!!

「…会社のマダム達から教えられた」

「どっちの?」

「藤野は野郎ばかりだ!!
今井に決まっている!!今井の…秘書マダム達だ!!」

あ、顔が赤くなったよ、トキさん。

「…みんな、心配してくれているんだ。
社長にとっての一人娘が出産。しかも、初孫。
その話をするとお義父さんは…本当に嬉しそうに笑うんだってさ。
孫が産まれたらあちこち連れて行ってやりたいとか。
きっと父親は仕事で手いっぱいになるから俺が娘も一緒に連れて行ってやりたい、とか。
自分が娘の小さい時に出来なかったことをこれから先、娘と孫にしてやるって。
だからあり得るリスクは先に教えておくって言われた」

…そうなんだ。

「遥はね、みんなから愛されているんだよ。怖いとは思うけど、頑張れ!!」

トキさんは私の肩をポン、と叩いた。
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