それもまた一つの選択
4.すべてはこれから

この子は赤ちゃん、私は子供 - 遥 -

今年の桜は少し早いみたい。
3月末に咲き始めて4月に入ってからはもう散り始めている。

家の近くのスーパーに買い物に出かけて、遊歩道沿いの桜並木を見ながら歩く。
予定日まではもうすぐ。

卒業してから急に大きくなったお腹。
それを見てトキさんは
「お腹の子も緊張から解放されたんだ」
なんて言ってた。
私も全然増えなかった体重が急に3キロ増えた。
…でもこれは危険な増え方だと担当医はため息混じりに仰っていた。

最近、私が悶絶するくらい蹴る我が子。
足の力強そう。
サッカーでもさせたら凄い子になりそうだわ。

何だか、股関節辺りが変な感じ。
いつもと違う感覚を覚える。

明日はトキさんも高橋さんも久しぶりの休み。
大学は春休みだけど、仕事は連日今井商事本社でしている。
2人とも大学生なのに、優秀な社員並みに仕事が出来るし早い、とはお父様。
トキさんなんて更に自分の会社も管理しているから本当に時間がない。
…うん、だから私達もあまり接する時間がない。

おはよう、おやすみ。
遥、ゆっくり寝てて良いからね。

私の耳元で聞こえるその声だけが接している時間に思える。



午後1時過ぎ、家に帰ると人の気配がする。
リビングに入るとトキさんと高橋さんが今か今かと私を待っていたみたいで

「遥ちゃん、帰ってくるの遅いよ〜」

高橋さんは苦笑いをしながらキッチンへ歩いて行った。

「二人とも、仕事じゃなかったの?」

トキさんは私が持っている荷物を手に取ると

「土曜日だし、早く帰って良いよって」

久しぶりに見たトキさんの顔。
目元を細くして笑っていた。
…ドキドキする。
もう、出会ってから3年が経つのに今だにその笑顔を向けられるとドキドキして気持ちがふわふわする。

「はいはい、お邪魔しまーす!」

高橋さんが昼食をテーブルに運んで来てくれた。

「見つめ合うのもお部屋でしてくださいー。
相思相愛はわかりますけどねえ、とりあえず先にご飯食べますよー?」

「はいはい、スミマセン」

トキさんが高橋さんの背中を軽く叩いて、手伝い始めた。

私も手伝おうとすると

「遥ちゃんはいいから」

高橋さんは椅子に座るように身振り手振りで私に指示を出す。



久しぶりに3人で過ごす土曜日の午後だった。
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