それもまた一つの選択

商談という名の取引・会社と遥 - 都貴 -

遥の様子が変だった。
次の日曜、会えるかなんて。
会えるに決まっているじゃないか。

少し悶々としながら家に帰るととんでもない郵便がポストに入っていた。

「今井商事…」

封筒の送り主を見て大きくため息をついた。
代表取締役社長 今井 健一

その封書は遥のお父さんからだった。

開けてみるとシステム開発の依頼。
見積書まで入ってあった。
…破格の金額提示。

何故、ウチのような会社に。
しかも社長自ら。

これって。
遥との関係を清算しろっていうことかな。
清算する気なんて更々ないけど。
うーん、わからん。

一度、会いたい旨と俺の時間の都合に合わせると記載されていたので。
早速電話。
その番号は会社の代表電話ではなかった。

「お電話ありがとうございます。今井商事 秘書室 海老名でございます」

社長秘書が出ちゃったよ。

「私、藤野情報システム株式会社の藤野と申します」

と言うだけで

「藤野様、お世話になっております。少々お待ちくださいませ」

しばらく待つと

「大変お待たせいたしました。ただいま今井にお繋ぎいたしますのでお話しくださいませ」

美しい声の女性から、ガラリと雰囲気が変わった。

「お電話代わりました、今井でございます」

遥のお父さんであり、この国を代表する今井商事のトップ。
落ち着いた声が印象的だった。

「お忙しいところ恐れ入ります。私、藤野情報システム株式会社 藤野と申します」

「いつも遥がお世話になっております」

いきなり、そこ!?

「こちらこそお世話になっております」

遥のお父さんは思ったよりも話しやすかった。
俺のレベルに合わせて貰っているのかもしれないけれど。
今度の土曜夕方に一度、本社へ出向くことになった。
大学の授業がない時にわざわざ合わせてくださったのだ。

「お会いできることを楽しみにしております」

などと、電話を切る寸前に言われて俺、久々に心臓がバクバクした。
本当に別れさせられるんじゃないかと思う。
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