それもまた一つの選択
うわあ…。

思わず声を上げそうになった、今井本社。
俺みたいな人間がここにいていいんだろうか。
今日は土曜日。
ガランとしているが、休日出勤している人もいるようでちらほらと人が見えた。

受付で問い合わせるとすぐに秘書が来るとの事でコートを脱ぎながら建物の中を見つめていた。

「お待たせいたしました、秘書課 海老名と申します」

声と同様、美しい女性だった。

「藤野情報システム株式会社 藤野と申します」

と名乗り、頭を下げると

「フフッ、社長共々、楽しみにしておりました」

今度は可愛らしい笑みを浮かべられて困惑する。
その楽しみ、とか一体何なんだろ。
俺、値踏みでもされているのかな。

社長室に入ると正面のデスクに座っている半端ないオーラの持ち主と目が合う。

「初めまして、藤野情報システム株式会社 藤野と申します。
本日はお時間いただきましてありがとうございます」

と頭を下げると

「まあまあ、そんな固い挨拶はその辺で」

今井社長は椅子から立ち上がると

「さ、こちらへ」

ソファーに座るように言われた。

「早速、本題へ。
君の会社の事はずっと調べさせてもらっていた」

でしょうね。
いきなりあんな文書を送り付けてくるんだもの。

「今、この会社は外注でその部分を補っている。
もうじき、システム自体を変えようと考えている。
もっと効率の良い物を作って社員の余計な作業を減らしたい。
君ならこの会社のシステムを全面的に任せられると思うのであの文書を送ってみた」

「でも、今の私に発注するにしても外注のままだと思うのですが」

今井社長はニヤリと笑った。

「…君は、いや。
遥が言っていた名前で言おうか、都貴君」

…?
遥がお父さんの前で俺の名前なんて言う?
そんな心の中を読んでいるかのように、

「遥と接する時間なんて小さい時からほとんどなくてね。
夜、帰宅してから遥の部屋に入って寝顔を見つめるんだ。
高校に入ってから寝言で毎日のように『トキさん』って言うから…」

遥~、隙だらけだな。

「さて、都貴君は将来の事、どう考えているんだい?」

「…どの将来ですか?私の会社のことですか?それとも遥の事ですか?」

と言って、しまった!!
遥の事を呼び捨てにしてしまった!!

「すみません、遥さんの事ですか?」

訂正すると遥のお父さんは大笑いし出した。

「いつも通り、呼んでいる名前でいいよ」

なんて言われた。

「…そうだね、出来たら両方の事を聞きたい」

中々難しい質問をされるな、この方。
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