それもまた一つの選択
「ありがとうございました」

翌朝、私は藤野家の皆さんにお礼を言うと

「また泊まりに来てね」

と言われ、大きく頷く。

「気をつけて、楽しんできて」

お母様がトキさんに注意すると

「うん…。
これを逃すとこの先中々行けないと思うから、怪我等無いように気をつけるよ」

トキさんは私の手を握った。
そのまま二人、歩いて駅まで向かう。

何だかこうやって歩くの、懐かしさを感じる。
トキさんが高校生の時はよく一緒に歩いたのに。
大学生になってからは会うのも休みの日だし、トキさんが車出してくれるし。

何かを得れば何かを失うってこういう事も含まれるのかもしれない。

「遥、俺、財布は持ってるけど旅行行くにしても服もカバンも何にも持って来てないから、そういうの、買いに行こうか。
遥の好きな服、買ってあげる」

好きな服…。

頭に浮かんだのは一度だけ平野さんと行ったあのお店。

「…何か欲しいの、あるの?」

クスっ、と笑ったトキさん。
…私の顔は正直に出てしまったんだろうか。

「あのー…。
前に平野さんと行ったお店のお洋服が可愛すぎて」

でも、値段を見てとてもじゃないけれど買えないって思った。

いくらお父様にお願いしてもせいぜい誕生日プレゼントで1着しか買えないと思う。

「でも、トキさん、いい!
高いし、旅行行くのに来たらもったいないかも」

トキさんはチラッと財布の中を確認して、

「いいよ。
旅行するにもちょっと手持ちが少ないから銀行で下ろすから。
遥が本当に欲しいのはそれだろ?
変に安いものを買って着なくなるより、遥が本当に欲しいものを買って大事に着て貰える方がいいから」

ふふっ、と笑うトキさん。
何だろう、彼氏、いやもうすぐ夫。
いや…保護者だよ、トキさんは。

2歳しか違わないのに。
保護者。

複雑…。
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