それもまた一つの選択

遥 -高1の春、そして夏-

高校生になっても。
監視付き。
私はどこへ行っても、何回誕生日を迎えても。
監視されるんだ。

だから…帰りたくなかった。



土曜日、穏やかな午後。
春の陽気に誘われてどこかに行きたい。

でも。
行けない。

だから本でも読んで帰るか。

図書室に立ち寄った。

ここの図書室、結構大きくて沢山の本があるなあ。

あ、星座の本。

夜空を見上げたいのに、それさえも許されない監視下に私はいる。

その本を手に取り、周りを見渡す。

誰もいない、と思ったその時。

本高く積み上げた窓際の席で伏している人がいる。

その人が気になって…隣に座った。

気持ちよく寝てるなあ。

幸せそう。

こういう人を好きになれば。

私も幸せになれるかな。

そんな事を考えながら星座の本を広げた。

1時間くらい経って、隣が動いた気配がしたのでチラッと見てみると。

想像通りのお顔。

…ドキドキする。

思い切って言った言葉。

「ようやくお目覚めですね」

その方の目が一瞬、大きく見開いた。

「…寝てるの、見てたの?」

声も…大好きな部類の声。

私は頷く。

「本当に気持ち良く寝ておられたのでついついお隣に座ってしまいました」

「ふーん…」

その方は体を起こそうとせず、そのままの状態で会話を続けた。

「その本…」

私が持っている本をじっと見つめて

「俺も好きだなあ」

なんだか自分が好きだと言われているみたい!

「私も大好きなんです!」

きっと私、今、凄く笑ってると思う。
良かった、この方も星座が好きなんだ!

「実際に星空を見上げることは?」

私は首を横に振った。

「窓から見ようとすると…親に風邪を引くとか言われてほとんど見られないんです」

監視されているから。

「じゃあ、一緒に見に行く?」

…えっ?

行きたい!

「…行きたい、けどダメです。門限5時だから」

帰って来なければ…強制に連れて行かれるから。

「昼間から見れるんだけど、行かない?今から」

その方は私の全てを察したかのように笑った。
< 8 / 119 >

この作品をシェア

pagetop