それもまた一つの選択

プレッシャー - 都貴 -

来週月曜に会見を控え、どういう事を話そうか無地の用紙に箇条書きしていた。

ちらり、とベッドを見つめると遥が心地良さそうに寝息を立てている。
家に帰すつもりだったがご飯を食べてから眠い、と言うのでそのまま泊まらせる事にした。
旅の疲れと、今日の話し合いで相当なプレッシャーだったのだろう。
再び机に向かい、箇条書きを見つめる。

ただ単に、俺の会社が今井商事の傘下に入るわけではない。
遥のお父さんは…俺を試すつもりだ。
公的な場で。
温厚そうに見えるけれど、それくらいの事を今の段階でやってのけないとこの後、絶対にやっていけない。
そう思っているのだろう。

本当は来週、遥を病院に連れて行くつもりだったが明日、土曜日に連れて行く。
きちんと確認しておきたい。
そのまま成長してくれていたら尚更、覚悟を決めないといけない。
でも…その逆もある。
そうなったら、どうしよう。

「本当にこれで大丈夫なんだろうか…」

思わず呟く。
希望よりも不安が大きすぎる。
相談出来る誰か、がいればどれだけ楽か。
高橋に話をしたところで、高橋はまだ俺の話に付いてこられない。
遥は…絶対に無理だ。
一流会社を経営する父がいても。
遥には帝王学を学ばせていない。

孤独だ。
この先も、しばらくは。
自惚れでもなんでもなく、客観的に見て自分の才能がここまでなかったら。
こんなにも孤独は感じなかっただろう。

昔から同級生とは全く話が合わなかった。
あの、人生を変えた作品を作った時も。
同級生の一部のマニアは喜んでくれたけど大半はオタクだと罵った。
それからますます、孤独になり。
おかげで友達はほとんどいなかった。

高校も通っていた中学からはほとんど行かない高校を受けた。
少し特殊な学校で一芸一能を大切にしていたから。
私立なのに俺の実績を見て授業料は無料になった。
でも、そこでも孤独だった。
同級生と話が合わない。
けど、唯一。
俺の事を気に掛けてくれたのが高橋。
高校3年間、何故か同じクラス。
毎日1回はくだらない話をしてきた。
本当にくだらない、相手にするのも嫌になる位。
でも、そんなくだらない事が。
俺を時々救ってくれた。

『藤野、そんなに色々と考えてたら頭禿るよ。なるようにしかならないし』

なんて、腕組みしながら考え事をしていたら人の額を思いっきり突いてそんな事を言うんだ。
何度救われたか。

遥なんて、図書室で寝ている俺を見て一目ぼれをしたらしい。
本当に変わっていると思う。
そんな子、今までいなかったし。

俺は…最初、目を覚まして隣にいた時には夢かと思ったけど。
俺の事を色眼鏡で見ない遥を段々好きになっていった。
顔も好みだったし。
…超お嬢様と知った時は正直ビビったけど。



「トキさん、何悩んでるの?」

後ろから暖かい感触が俺を包んだ。

「起きたの?」

さっきまで寝ていたはずなのに。

「トキさんの声が聞こえた」

ああ、ごめんなさい。
大きな独り言。

「一緒に寝ようよ」

時計を見ると2時を少し、回ったところだった。

「うん、そうだね」

遥をそのままおんぶしてベッドに向かう。
途中、遥の体を前に抱き直して向かい合うとそのまま俺はベッドに腰を掛けた。

「明日、病院行ってその後、遥の家に荷物、取りに行こう。
明日からはずっとここで一緒に住もう。どんな事があってもプライベートでは遥と一緒に居たい。
俺の立ち位置がこれから先、どんどん変わっても…家では遥が俺の事、待って居て欲しい」

俺の望みはそれだけ。
遥とずっと一緒に居たい。

「もちろん」

遥は俺の気持ちを察したんだろうか。
優しく微笑むとそっと唇にキスをしてきた。
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