それもまた一つの選択
「わーい、また高橋さんのおにぎりが食べられる」

その夜。
久々に3人でご飯を食べた。

あ、夜に食べた事は一度もない。
いつもお昼に食べていたから。

親の呪縛からようやく解き放たれた…って実感した。

「高橋のおにぎりには…ちょっと嫉妬する」

トキさんは不満そうにお茶を飲んでいる。

「でも、本当に俺なんかこの隣に住んででいいの?」

戸惑いながらも高橋さんはトキさんの顔色を窺う。

「当然だろ?
お前、本当に俺達の恩人なんだよ、色んな意味で。
俺はこれから先もずっとお前の事を信頼している、だから助けてほしい」

「ご希望に添えるかどうかはわかりませんが尽力いたします」

私、本当に嬉しくて思いっきり拍手しちゃったよ!!
二人とも苦笑いをしていたけど。

「でも、まさか今井商事の社長直々にああいう事を言われるとは思わなかったなあ」

私もびっくりした。
きっと今日、この家に来たのは高橋さんを見たかったのだと思う。
…スカウトかな。

「俺がこの世で一番信頼している友達だからな。
まあ…遥のお父さんはずっと先の事まで考えていると思うね。
高橋には死ぬまで俺に付き合ってもらわなければならないかも」

「大げさだなあ」

高橋さんは笑いながら言うけれど、トキさんの目は真剣だった。

「…何それ、本当に真剣な話?」

高橋さんも真顔になる。
トキさんは目を閉じてゆっくりと頷いた。

「多分、俺達…この先凄い事に巻き込まれていくと思うよ。
だから高橋には俺の傍に居て欲しいんだ。
きっと、この先たくさんの決断を迫られることになる。
その時、客観的な目で俺を見て欲しいんだ」

私にはトキさんが一体何の事を言っているのかさっぱりわからなかった。
高橋さんも同じく、わかっていないようでただただ頷くしかなかった。



トキさんの言葉が現実味を帯びてくるのは。
この翌週の事だった。
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