それもまた一つの選択
そのまま体調が悪いので翌日は休んだ。
こんな状態で良いのかなあ。
朝起きたら、トキさんも。
高橋さんもいなかった。
大学はまだ夏休み中だというのに、トキさんは自分の会社へ。
高橋さんはこの夏休み中、ずっとお父様の秘書の方と仕事をしているとの事で。

リビングに行くと私の分の食事は用意されていた。

その隣くらいに何気に置かれていた新聞。
そういえば、お父様が会見するときって地方面か経済面によく載っていたりするし…。
朝食を食べる前にパラパラと開く。

今井商事での会見内容はそのどちらの面でも載っていた。
お父様はトキさんを後継者として育てる、と。
早い段階での交代を検討中。
大学卒業後、すぐにでも、という感じ。
…私との婚約、も発表されている。

公私ともにトキさんは今井の人間になった、という事だ。
苗字だけが藤野、で。

全てはお父様の手中にある。

思わず、新聞をギュッと握り締める。
少し呼吸が荒くなった。

「本当にこれで良かったんだろうか」

誰もいない部屋に響く、自分の声。

今井とは何も関係のないトキさんを。
巻き込んでしまった。

あの時。
最初にトキさんを見た時。
隣になんて座らなければ良かった?
遠くから、見つめるだけにしておけば…
きっとトキさんは自由に生きて行けた。
今井という籠の中に閉じ込められる事はなかった。

仕事だって。
このままいけばトキさんが今、経営している会社は誰かに託さなければいけない。
本当なら、ずっとトキさんが関わっていたかったに違いない。

私の胸の中で急にたくさんの感情が押し寄せてきた。
どうしよう、頭がくらくらする。



「…何泣いてるの?」

今、一番話したい人の声が前から聞こえて目を開けた。
下の会社に今日は籠るって言ってなかったっけ、トキさん。

「…なんでここにいるの?」

玄関、開く音も聞こえなかった。

「遥がちゃんとご飯食べたか見に来たの」

トキさんは椅子を引いてそこに座る。
チラッと私の手元を見て、すぐに視線を戻した。

「仕事は?」

「みんながしてくれている。あと少しで完成だから」

最近、普段の仕事+RPGゲームの作成をみんなでしているらしくてかなりのオーバーワークになっていた。
疲れているはずなのにトキさんは目を輝かせて夜な夜な会社に出向いていたらしい。
旅行でしばらく留守にしていたけれど今日は朝から入れる、と言って張り切っていたのに。

「ごめんなさい」

としか、言えない。

私がトキさんから自由を奪っている。
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