それもまた一つの選択
「平野さんで良かった」

植田先生はホッとしたように呟いた。
そして私を見て微笑むと

「ずーっと、ここに居てもいいわよ。
学校にさえ来てレポートを出せば、今井さんの場合は卒業出来るし。
クラスよりは…ここの方が私も安心なんだけどなあ」

植田先生は冷たい麦茶を入れてくれた。

「明日から、自分のマグカップ、持っておいで。お茶入れてあげるから」

「ありがとうございます」

「うんうん、笑顔が見れた。それだけで私は嬉しい」

何だかお姉ちゃんみたいな感じ、植田先生。

「しかしなんだなあ、羨ましい」

植田先生は私を見てニコニコと微笑む。

「あんなハイスペック男子、ここの生徒には絶対に捕まえられないって思っていたのにな」

「トキさん、自分ではこんなオタク、誰も見向きもしないって言ってましたよ」

付き合い始めたあの頃、どうして遥は俺なんか好きになるんだろっていつも言ってた。
しかも寝顔を見て好きになるって本当に変わってる、って。

「まあ、確かにマニアックだけど。でも顔もそれほど悪くないし。性格も悪くない。
そして何よりお金持ち!!羨ましー!!」

結局、羨ましいが先に来るんだ。
私はただただ笑うしかない。

「入学した当初は結構女の子から声を掛けられていたと思うんだけど。
でも彼はね…やんわりと、それでも鋭く断るのね。
断ればその友達が出てきて、良い子だから付き合ってあげてよ、なんて言われて。
好きでもない子の事、更に友達からそんな事を言われたらますます嫌になるじゃない?
更に逆恨みをされて今まで好きだって言ってた女の子たちが豹変して、藤野君の悪口を言う。
だから余計に藤野君は心を閉ざしたのよ、女の子に対して」

そんな話、トキさんはもちろん、高橋さんからも聞いたことがない。
目をまん丸くしていると

「あ、これは竹中先生情報。
ほら、藤野君、よく図書室にいたでしょ?
色々と話をするうちにそんな話もしてたんだって。
竹中先生には心を開いていたみたいよ」

それは私もそう。
竹中先生、話を引き出すの、上手いし。

「藤野君が今井さんの事、好きになったの何となくわかるわ。
まあ、家庭環境の影響もあるでしょうけど。
今井さんの、一人でも頑張っている強さが藤野君にとっての励みなんでしょうね」

だからお似合いなの、二人は。

そう言って満足そうに植田先生はお茶を飲んだ。
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