まほろば
ときめきは、輝きと共にやってくる

モノクローム

 クリスマスまで、一ヶ月を切るころになると、街並みはクリスマスカラーで華やかになります。
通りのあちらこちでクリスマスツリーが赤や緑のガラス球を光らせ、夜ともなると街路樹が、光の若葉に煌く並木に衣替えしてゆきます。
土曜の夜は、歩道を楽しげな二人連れ達が、ショーウインドウの明かりに浮かぶ影絵の物語を語かたり始めます。

 通りの広場に設けられた、一際大きなクリスマスツリーの傍で、櫻ノ宮紀子は待っていました。
風はほとんどはありませんが、冷え込んだ冷気が紀子を包んでいたのです。
ハァーと両手を丸めて息を吹きかけると、指先に春を少し感じられ、肩を丸め少し足を上下させると、暖かく感じるのですが、一度始めると止められなくなるのが困った挙動になってしまうのです。

 紀子は十二月二十三日の夜、友達の妙子に会うために待っているのです、妙子は小学校からの友達で、親友以上の関係です、赤毛のアンなら腹心の友と呼んだのと同じような大切な、大切な友達です。
待っている間は、紀子にとっては素敵な空想の世界に浸るのでした。
ダイアナは通りの向こうから私を見つけてくれて、きっと息を切らして走ってくる、そしてダイアナは「アン、遅れてごめん!、私の心の友、会いたかった」「グリーンゲーブルズは、あなたが帰ってくるのを私と共に待っていました」

そして私は言うのです「私のすべては、ダイアナ、ダイアナの心の中にあります」「私の戻る場所はここにしかありません」
そしてダイアナと二人で春のお花畑を抜けて、小川に架かる小さな橋で夕暮れになるまで話し続けるの・・・

「さぶ・・・」「グリーンゲーブルズは冬だったみたい」紀子は両手を息で暖めながら、ツリーを見上げたのです。

「紀子、待ちましたか」「何があるのですか?」妙子は私が眺めていたツリーを見上げて言いました。

「妙子、グリーンゲーブルズは冬になっていました」妙子の両手を取って私は話したのでした。

「そうですね、冬です、それにグリーンゲーブルズではありません」妙子は淡々と答えたのです。

「知っています、ここは中瀬です、でも、春のグリーンゲーブルズだと思えば、寒さにも耐えられるように思います、妙子もそう想えませんか?」私は、春なら花で溢れる花原野を妙子と走るのにと思っていました。

「紀子、行きましょう」妙子は私の手を引いて歩き始めました。

週末の聖夜は、二人連れ達の影絵のドキドキした鼓動のざわめきの渦でした。
私には、妙子だけが輝く色彩に見えています。
私の手を引き、前を進む妙子はトナカイのようでした。
プレゼントを届ける子供達はここにはいませんが。

「紀子、また、まほろばの国にいますね」妙子は振り向き私に言いました。

「妙子と二人で居るところはどこも素晴らしく、まほろばの世界です」私は笑い顔で答えました。

「そんなこと言ってると、彼氏ができないよ」妙子は笑い半分の顔で私を見ながら言ったのです。

「彼氏と、まほろばには行けるとも思えないけど」「それにときめきを感じる相手も居ませんし」私は周りに歩いている影絵をみましたが、やはり影絵でした。

「紀子は、どのような人にときめくのでしょうね?」

「ときめくときは、いつも光輝き綺麗な色彩に変わってゆくのです、だから妙子は素敵な色彩に輝いているよ」
・・・「カメレオンみたいに」私は笑いながら言いました。

「紀子、私を動物に例えるのはやめてくれない、笑えるけど」妙子はカメレオンって、どんなのだったか?思い出せない?といって笑うのです。

「紀子、着いたよ」二人は、リースの架かった扉を開けて入りました。

室内は春でした、暖かいのに窓の飾りは雪の結晶・・・なぜ春の花にしないのか不思議です。

黒い影が、ひとつ、椅子に腰掛け妙子に手を振りました。

「紀子、紹介するね、こちら従兄弟の葛城敬一、櫻ノ宮紀子ね」なぜか?妙子は影に私を紹介した?
私は影に会釈をしたけど・・・なんなのこれ?

「妙子・・・何なの?」私は妙子の耳元でささやいた。

「どう?色は付いてる?」

「影」

「何の話してるの?」と影は話した。

私は状況が理解できなかった、この影は、何故ここにいるの?
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