まほろば

水晶

 家からさほど遠くもない所に、新年の最初にお詣りする神社があります。
古くからの歴史もあり、氏神様でもあるのです。
テレビ中継されている神社のような華やかさも、賑わいもありません。
駐車場の横から入れば、社務所と本殿にすぐに行けるのですが、初詣の時は必ず、石灯篭に明かりが灯った参道から門を抜けます。
さほど大きくもない鎮守の森に並んだ灯篭の光は、この時にしか見ることのできない幻想的な雰囲気があり、とても気に入っています、参門まで近づくとお正月らしい雅楽が流れているのですが、足元にある小石を踏みしめる音の方が大きく聞こえるぐらいなのです。

 最近は、妙子と二人でお詣りしていますが、以前は家族でお詣りしていたのです。
参拝されている人々は、ほぼ知り合いなのですけど。・・・狭い世界です・・・

「妙ちゃん、紀ちゃん、明けましておめでとうございます」親戚のおじさんから挨拶されました。おじさんの家は造り酒屋を経営しています。

「明けましておめでとうございます、今年もかわらず宜しくお願い致します」・・・さすがにアケオメなんて言えません・・・

「水仙閣の敬一さんですね、お正月は戻ってこられていたのですか、いつも旦那さんや女将さんにはお世話になっております、本年もかわらず宜しくお願いします」・・・影は意外と顔が広いのね・・・

「明けましておめでとうございます、かわらず本年もよろしくお願いいたします」「東京へ出てから正月に戻るのは三年ぶりになります」「夏とかは戻っておりましたが、なかなか皆様にご挨拶ができませんでした、ご無礼しておりました」敬一さんは思っていた以上に確しっかりした人なのかと思いました。・・・すこし意外だな、影影って馬鹿にしてしまっていたかな・・・

「おじさん、参拝してきますので、お時間があれば家に寄ってみてください」と言って、私は深く礼をしました。

私は敬一さんが少し気になり始めたようでした。
その後からは、御手洗[みたらし]でも本殿の前でも敬一さんの動きを見ていました。
姿勢正しく参拝する姿に、私は目が離せなくなっていました。
おみくじで敬一さんは妙子と盛り上がっていましたが、私は只々眺めているだけでした。

三人は焚火の前で、甘酒を頂きました。・・・私、なんかいつもと違うね、どうしたんだろう・・・
私は焚火の揺らぐ炎を見ながら、薪の爆ぜる音がするたびに、現実と空想を出入りして黙り込んでしまったのです。・・・ダイアナ、焚火の匂いって森の香りがしない、ダイアナ居ないの? 返事してよ・・・

「紀子? どうかした?」妙子は聞いてきましたが、答える返事が上手く見つからなかったのです。

「妙子、私・・・もしかしたら敬一さんの色が見え始めてるのかもしれない」「あ、でも良くわからない・・・」

「敬一に話したら喜ぶよ」

「やめて、よくわからないから」

 焚火から登る煙を見上げてゆけば、その先に光る水晶のきらめきが見えました。その光を見詰めていると体が急に軽くなり宙そらに舞い上がったように思えるのです。雅楽の音色も、人の話し声も何も聞こえなくなり、暗いように思えるのに明るさがあるような、不安定なのに安心感があるような。今まで感じたことのない世界なのです。居心地が良いのか悪いのかも判断もできなくなっていました。
・・・ダイアナ、私、グリーンゲーブルズに、マシューに連れられてきたときの気分かもしれない。ここに居ないとダイアナ、貴女にも会えなかった、デスティニーはあるよね、答えてダイアナ・・・
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