まほろば

白いハート

 大晦日も夜の七時を過ぎると、慌ただしさも無くなって、新年を迎える雰囲気が家の中に広がってきます。
この時期になると、お父さんはいつも同じことを聞くのです。

「紀子、大人になると一年が早く過ぎるのだが、紀子は少しは早く感じてきたか?」

「学校は試験、試験で息を抜く余裕もないよ、学期間が早くなった感じはあるかも」・・・もう夏休みの終わりが、遥かかなたって感覚は無いよ、いつまでも小学生じゃないからね・・・

「そうか、紀子も大人になって来たわけか、子供は良いな、一年が倍にも感じられるんだぞ」

「お父さんも、子供の頃があったのだから、感じる経過時間は同じでしょ」・・・辛いことも倍に感じるのは、いらないかも・・・

「なるほど! 確かにそうだな、紀子は去年よりは大人になってきてる」

「ふつう、そうでしょ」・・・この儀式はいつまで続くのかな・・・

「紀子、妙子さんと初詣にゆくのでしょ? 今年は着物にはしないの?」

「今年は雪が多いから、今夜は着ない」・・・子供のころ、晴れ着ですっころんで泥水被って、晴着が泥だらけになったのを見たとき、元旦に一日中、泣き続けたのをお母さんは忘れたのですか、あの時は人生が終わったと思えるほど悲しかったよ・・・

・・・毎年テンプレのような会話だけど・・・

・・・アン、私のお母様よりは優しいよ・・・ダイアナ・・・



「おい、紀子、こんなところで寝るなよ」

「え、寝てたのか・・・」・・・こたつは、やばい、不覚を取ってしまった、小学生のころは、布団までふわふわと運んでくれたけど、今、同じことされたら・・・

「ほれ、ミカンでも食べろ、目が覚めるぞ」

「ありがとう」・・・いつもの大晦日だ・・・

ピンポ~ン
「はい」・・・「こちらこそ、紀子がお世話になりました」「来年も仲良くしてくださいね」・・・誰か来てる?・・・

「紀子、妙子さんがいらしてますよ」

「あれ?なぜ妙子が迎えに来るの?」・・・約束と違うじゃない・・・

「紀子、妙子さんの彼氏なの? かっこいい人ね」

「妙子と彼氏が来たの?」・・・妙子の彼氏? え!嘘でしょ、そんな話知らないよ・・・

私は、妙子の彼氏と聞いてうろたえました、どきどきしながら玄関に向かったのです。

「ごめん、紀子、時間が早かったので迎えがてら来ました」

「それはいいけど」私は、彼氏をみました。
「え! なぜ、貴方がここに居るわけ?」

「こんばんは」「顔は覚えていてくれたのですね、影って呼ばれてたので、すこし心配でした」

「はぁ、ま、影ですが、識別はできますよ」・・・電話もできないくせに、直接には話せるのね・・・

「紀子、寒いから入ってもらいなさい」・・・お母さん余計なことを・・・

「妙子入って、まだ時間も早いし」・・・影は外で待っておくように、おすわり!・・・

「紀子、そのトレーナー懐かしいね」・・・?・・・

「ぐあぁぁぁ 着替えてくる」・・・なぜ、影はここにいるのよ・・・

このトレーナーは去年の文化祭で作ったもので、部屋着にしていたのです、胸のところに、あい らぶ なかせ ハート。背中に、大きなハートなのですが、背中のハートがデザインを出した資料が長めのハートになっていたのもあるのだけど、細長の方が痩せて見えるという意見もあり。
ピンク色のトレーナーに白色の長めのハートで縁取りが不鮮明だと言う者がいて黒でハートを書いたのです。
初めて着てみたら、背中がピンク豚のチョキみたいだってクラスの男子が・・・
皆も同じなので気にしなかったけど、さすがに外にはこの姿では出たくない。
・・・なぜ、この影にはこんなところばかり見られるの・・・

「おまたせ、妙子」お出かけ用に着替えました。

「花びらのトレーナーも可愛かったのに」と影が言いました・・・花びら?・・・

「はなびら・・・ですか?」・・・どこに花があったの?・・・

「背中に、桜の花びらが一枚ありましたよ」

桜の花びら、影には花びらにみえたのね。

「ピンクの春色に、桜が舞っているようにみえましたよ」・・・影さん少し言いすぎな気もしますが?・・・

「啓一さん、ありがとう、あのトレーナーのデザインは私が描いたのですが、クラスの男子には豚チョキトレーナーって言われていました」「でも、あれはハートのなのです」

「初めて普通に会話ができた気がします」・・・そうだったかな?・・・



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