幾千夜、花が散るとも
 最後に軽く啄ばんでから離れて、千也はあたしの頭を撫でた。

「先に布団に入ってな」

 いつもみたいに一緒に寝るつもりで千也が云ったのを。あたしの反応が一瞬遅れただけで、気取られた。探られるような眼差しを無意識に逸らして、ぎこちなく笑う。

「一也がね、ちょっとご機嫌ナナメで・・・。戻んなきゃ」

「・・・なんかカナを困らせてる?」

 千也は少し目を細めると、あたしをじっと見た。
 小さく首を横に振り「大丈夫」と淡く笑む。千也に余計な心配はさせたくない。それにこれはあたしが一也に納得させるしかない問題。一也も愛してるけど千也には代えられない。それが答えだから。

「王子サマのおへそが曲がんないうちに戻るよ」

 あたしはわざと茶化したように言ってイスから立ち上がり、屈んでおやすみのキスを交わす。
 
「カナ」

 台所から出て行きがけに、千也が不意に呼び止めた。半分だけ振り返って目が合う。
 
「オレはカナが一番大事」

「・・・うん」

「一番て言うのはカナのシアワセしか考えてないってこと。忘れちゃダメだよ?」 

 そう云って、にこりと笑った。




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