幾千夜、花が散るとも
エピローグ
 お腹の出っ張り方とかが男の子じゃないかって一也は言う。よく蹴られるし。
 
「あんまりヤンチャでも困るんだけどなぁ、十也(とおや)クン」

 手を繋いで一也と商店街を歩きながら、ダウンコートの下のお腹に向かってあたしは笑った。男の子ならもう決めてる名前で呼び掛けたら、中でちょっと動いた気がする。

「うわ、この子いま返事した。一也!」

「寝相が悪いだけなんじゃないの?」

 一也もクスクス笑う。

 今日はクリスマスだ。雰囲気だけでもと台所に小さくて可愛らしいツリーを飾り、さっきケーキを買ったところ。チキンは一也が焼いてくれるらしい。もともと料理は上手なんだけど仕事を変えて家にいてくれるようになってから、もっと腕が上がったような。

「あと買うものある?、可南」

「ノンアルのカクテルぐらいは良くない?」

「じゃあ、チーズフォンデュも追加するか」


 二人になって。他愛もない日常と会話が戻ったのも割りと最近だ。一也が涙を見せたのも一度きり。お互いに少し何かが吐き出せたみたいで。日々が何となく穏やかに過ごせるようになった。

 警察は相変わらず何もしてくれる気配はなかった。ただちょっと前に、あたしが昼寝をしている間にマキノっていう警察官が訪ねてきて、千也と一緒に消えたバーの事を一也に訊いて帰ったそう。オーナーのタカツって人について千也から聴いたことがあるか、とかそんな感じだったらしい。千也の行方に繋がるかは分からずじまいだ。
 
 千也がいたら。今年は3人と半分で賑やかなクリスマスだったね。ねぇ千也。どこにいてもいい、ただ元気であたし達のコトを想いながら笑っててくれてるなら。クリスマスなのに一緒にいられなくてゴメン、って思ってくれてるなら。

 ・・・ちょっとだけ許すよ。聖夜だから。

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