同僚は副社長様



『やっぱフロアが違うと雰囲気も全然違うね、なんか緊張しちゃう』


そう言いつつも、物珍しそうに周囲を見渡す凪子の瞳はキラキラとしていて楽しそう。

確かに、営業部があるフロアにはこんな高価そうな絨毯は惹かれていないし、手入れが大変な生花や、華やかな美術品も飾られていない。

私もここに配属された頃は、この厳かな雰囲気に息が詰まりそうだったもの。


「仕事の用事なら、秘書課に案内するけど」

『あ、違う違う!お昼、美都と一緒に食べたいなと思って!』


なんとなく凪子とここで出会って予感していた展開が的中してしまった今、断る理由もない私はわかったと頷く。

…それよりも早く、このコーヒーを副社長様に届けなければ。

時間に厳しい彼は、もうすでに2分も時間が押していることも気づいているはずだ。


「…ちょっとここで待ってて。準備してくる。」


凪子にそう告げて、私は足早に副社長室へと戻った。


「…遅くなりましたが、コーヒーをお淹れしました。」


パソコン画面から1ミリも視線を逸らさない副社長の脇に、音を立てないようにマグカップを置く。

すると不意に、彼の視線が私へと移る。

普段ではコーヒーをそばに置いても礼を言うだけで顔を向けることもしないのに、今日は一体どうしたのだろうと内心驚く。


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