同僚は副社長様
「いきなり、か…。まぁ、美都がそう思うのも無理ないけど、俺はずっと思ってたよ」
ずっと?
ああ、そう言えば、今日私が古川くんに手料理を振る舞うことになったのも、彼が私のお弁当に興味を持ってくれていたからだったっけ。
でも、たったそれだけで?
未だ、疑問の顔色のまま彼のことを見つめる私の視線を感じ取った古川くんは、その心の内を素直に話してくれた。
「俺、自炊できないんだ。だからと言って、自分のテリトリーである家に素性の知らない他人を呼んでまで、身の回りを整えようとは思えない。」
「私も、他人だよ?」
「こら、話は最後まで話を聞けよ。そもそも、美都は素性の知らない他人じゃないだろ。そういうとこも、俺の中で美都は条件クリアだった。それに、美都はよく家で作った料理の話をしてたし、会社には自分で作ったお弁当を持ってきていたから、美都が料理を得意としているのは知ってた。だけど、味が合う合わないはやっぱり人の好みだから、実際に食べてみないとわからないとこだろ?だから今日、美都の料理を食べることにした」
ああ、なるほど。
要するに、今日の私の手料理は、彼にとっては自分の食生活を私に託せるかどうかの抜き打ちテストだったんだ。
「さすがに、気分を害したかなとは思ってる」
「私の気持ちわかってるくせに、実行するとこ、さすが副社長様ですね」
もうプリンを食べる気力も湧かなくなった。
私は、純粋に私が作った料理を古川くんに味わって欲しかっただけなのに。
私の気持ちごと蔑ろにされたみたいで、古川くんが言った通り、気分が悪い。