同僚は副社長様



「式には出るの?」


きっと彼には、杏奈さんが結婚することに対する私の感想も、彼への同情も、すべて不必要なものだろう。

私は淡々と、彼がこれから何をしたいのか、探ることにした。

同僚の私は、傷ついた彼のそばにそっといることしかできないから。


『杏奈には、来てほしいと言われてる。』


苦虫を潰したかのような苦しげな表情で、2杯目のビールを煽った彼。

きっと今の彼の心中は、嵐のように荒んでいるのだろう。


「悩んでるんだ」

『………』


好きな人の、最愛の人の晴れ姿を、彼だって見たいはず。

でも、その最愛の人の晴れ姿の隣には、自分じゃない誰かがいる。自分じゃない誰かの隣で、最愛の人が幸せそうに微笑んでいる。

そんなの、見ているだけで心が潰れる。もし、私が彼の立場だったら、彼と同じように迷い苦しむ。


だけど、彼に『行かない』という選択肢を与えないのは、彼が愛してやまない杏奈さんの願いを叶えたいと、思っているからなんだろうな。


「古川くん」


呼びかけると、感情のない瞳と目が合う。

そんな顔、きっと杏奈さんは見たくないだろうな。


「一発撃沈、して来たらどう?」

『…え』


一体、何を言い出すんだ、という顔に、苦笑をこぼす。

こんなこと、私が言えた義理じゃない。

いつまで経っても、誰にも打ち明けられない片想いをしてる私が言えたことじゃない、でも。

彼のそんな顔は、2度と見たくない。


「完全にフラれたら、私が慰めてあげる。」


その一言で、彼にはすべて伝わったようだった。

もっと反発的な態度が返ってくるのかとビクビクしていたけれど、どうやら私の言葉は彼の心に響いたようで、それ以降は何も言ってこない。

私も、これ以上何も言えないため、違う話題に切り替えて、彼との食事を楽しいものにしようと気持ちを切り替えた。


< 9 / 80 >

この作品をシェア

pagetop