Dear Hero
二人の夜
「は?なんて?」

せっかく箸でつかんだミニトマトが、つるんと落ちて皿の中に戻った。


「だから。今年の年末年始はおじいちゃん家に行くの、大護はお留守番ね」
「ちょ…待って何だよ唐突に」
「別に唐突じゃないわよ。お母さんずっと考えていたし」
「今聞いた俺は唐突だよ!」

母さんの提案はいつも突然だ。
ファミレスのバイトから帰って、一人で晩飯を食べている時にさらっと言う。

年末年始のじいちゃん家といえば、メインイベントはお年玉だ。
水嶋の誕生日プロジェクトで貯金中の俺からしたら、こんなビッグパトロンはいない。
それがなくなるのは困る。なんとしてでも阻止せねば。


「嫌だよ、別に受験でもないのに」
「じゃあ、依ちゃん一人で置いてく気?」
「……!」


そうか。今年は水嶋がいるんだ。
うちの中ではすっかり馴染んでいるけど、さすがにじいちゃん家まで連れてくのは、さすがに気を遣わせてしまう。


「あ、あの…!私の事はお気遣いいただかなくて大丈夫です。その間は自分の家に戻りますし…」

台所で片づけをしていた水嶋が、慌てて飛び出してくる。

「でも中野さん、年末年始はお休みないって言ってたわよ」
「それは…いつもの事なので…」
「年末年始こそ、留守の家が増えるから空き巣被害も多くなるんですって。そんな危ない時に一人残しておけないじゃない」

確かに。母さんの言う事も一理ある。
それに、家族みんな出払ってるってことは…誰にも邪魔されず、水嶋と二人の時間があるって事じゃないか…。
こんなおいしい話はあるか?いや、ない!


「心配しなくても、お年玉はもらってきてあげるわよ」
「まじか!」
「半分になってるかもしれないけど」
「おい社会人!」


姉ちゃんの援護射撃。
下心を悟られないように、緩む口元を引き締める。

「……わかったよ」
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