Dear Hero
「ごめんなさい」

深々と頭を下げる。

「え?それはさっき…」
「もう1個ごめんなさいです」
「どういう…?」
「午後からバイトに出ないといけなくなりました」
「………」
「今日入る予定だった奴が体調崩したみたいで。その…俺、最近土日を引越し屋に当ててた分、本当は出なきゃいけない週末を外してもらってたから、なんていうか、その……」
「今までのお礼代わりに出たいって事…ですよね?」
「……はい」


下げたままの俺の頭を優しく撫でる。


「大護くんの、その優しい所が好きなんです。私が嫌だと言っても行きますよね?」
「……たぶん」
「だったら、私の答えは一つだけですね」
「ごめん。せっかくの誕生日なのに」
「もう十分すぎるほどの忘れられない想い出をもらいましたよ。さっきの…事とか…」
「もう本当、本当ごめんなさい。俺一度地獄に落ちてくる」
「冗談ですよ。その代わり、私のお願い事、聞いてくれますか?」
「何でも聞きます。何とでも言ってください」
「……今入ってるアルバイトが落ち着いたらでいいですから、しっかり身体を休めてください。週末…ずっと大護くんがいないのは淋しいから…」
「……仰せのままに」




たくさんの想い出を作ったテーマパークを後にする。
行きと同じく、電車に揺られて窓の景色を眺めながら。


変わっていないようで、少し縮まった依との距離。
今日進めなかった一歩は、これからゆっくり歩んでいけばいい。
だって、俺はずっと依の傍にいるんだから。
そう信じて疑わなかった。



この日、たった少しの勇気を出せなかった事を、その後の俺はしぬほど後悔する事になるのだけど—————

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