Dear Hero
ボス、現る
2月。
一昨日、今シーズン初の積雪となり一面雪化粧に包まれた街並みも、今では雪はすっかり解けて、泥まみれになった白い塊が日陰に残っているだけとなっていた。

今日は依のマンションお手入れの日。
9月に俺の家に住むようになってからも、「人が住まなくなったおうちは廃れてしまうんだそうです」と、半月に一度はマンションに戻り、換気をしたり掃除をしたり布団を干したり、今でもたまに泊まりに来る樹さん用にコーヒーを買い置きしておいたりと、部屋をキレイに保っていた。

依との約束通り、引っ越しシーズンが落ち着くのを待って、俺は引越し屋のバイトを辞めた。
引越しのバイトは当たり外れがあると聞くけれど、現場で一緒になっていた大学生の兄ちゃんたちと話すのは楽しかったし、社員のおじさんも気さくな人だったし、環境に恵まれたなと思う。
辞める時に、社員のおじさんに「また機会があったらおいで」と言ってもらえたのは嬉しかった。

とはいえ、先週末が最後の現場だったので、実質依とゆっくりできる週末はこれが久しぶりだったのだけど。


誕生日の後、バイトへ行く俺を見送ったその足で、依は早速デジカメの写真を現像してきたらしい。
お姉さんに撮ってもらった写真と、ホテルから見た夜景。
その2枚を特に気に入って、大事そうにフォトフレームに飾っていたと姉ちゃんから聞いた。


マンションのお手入れが終わったら、依が気になっているという駅前にできた新しい紅茶専門店に行こうかと話をしている。
先月、紺野と行ったお店で飲んだ紅茶が美味しくて、ハマってしまったらしい。
誕生日以来のデートを、ひそかに俺は楽しみにしていた。



マフラーの下から覗く、首元に光るネックレス。
俺と依を繋ぐ証しのようで、心がくすぐったくなる。
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