Dear Hero
「大護くん」

難しい話が終わったのか、突然呼ばれて慌ててコーヒーカップをソーサーに置く。
カチャンという音が、BGMの流れる静かなロビーに響いてしまった。


「…今回は、こんな事に君を巻き込んでしまって本当に申し訳ない。妻に…ひどい事を言われたりしたんじゃないか?」
「俺は…俺なんかより、依のがきっと傷ついているはずです…」
「そうか…。君は、優しい少年なんだな」

穏やかな表情で俺を見ると、嬉しそうに微笑むおじさん。
依の笑顔が急に懐かしくなってしまった。


「妻が依を置いていった日…あの時すぐに依を迎えに行けば、こんな事にならなかったのかもしれないな…」
「……」
「依を置いていったと聞いた時、すぐに他の男の所に行ったんだと思っていたんだ。でも、妻を信じたかった。母親として、依の所に戻ると思ってしまっていた」
「……」
「1週間、半月、1ヶ月…様子を見ているうちに、いつの間にか時間だけが過ぎていって、気づいたら私も仕事に追われてしまっていた。樹くんが依を引き取ると言ってくれた時、仕事の多忙さを理由に樹くんの優しさに甘えてしまった、駄目な父親なんだ」
「……」
「依からしたら、私は妻と暮らしているはずなのに、私だけが会いに行くのは不自然だと思った。…いや、私自身がそう思わせようとしていたのかもしれない。だから会いに行く事も疎かにしてしまっていたんだ」
「……」
「そんないくつもの自分勝手な理由で依を一人にさせた。そして、その結果こんな事態を引き起こしてしまった。…すべては、私の責任だ。申し訳ない」
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