Dear Hero
先週末は、樹さんからの連絡を受けて帰国してきたという、依の父親に会った。
仕事の調整が進まなかったのと、飛行機のチケットが取れずに帰国に時間がかかってしまったのだと聞いた。

「挨拶が遅くなって申し訳ない。依の父です。君が澤北くんだね?樹くんから話は聞いているよ。いつも依がお世話になっているそうだね」
「…澤北大護です。依さんを護れなくて、すみませんでした…」


依は父親似なんだなと思った。
穏やかな雰囲気と、目の形がそっくりだった。

目の下にはクマもあったし、セットされた髪が崩れていたけれど、仕事をなんとか片付けて飛行機に飛び乗ってきた様子が伝わっていて、ほっとする。
この人の愛情は本物だと思った。



「大護くんが謝る事じゃない。むしろ、大護くんがいたからすぐに手が打てたんだよ」


依の父親に会わせてくれたのは樹さんだった。
「俺も義兄さんに会うのは久しぶりなんだ」という樹さんは、おじさんと“大人の”話をしている。
耳には入ってくるけど、難しい言葉ばかりでよくわからなかった。



おじさんが日本にいる間宿泊するというホテルのロビーで集合だった。
おじさんも樹さんもコーヒーを頼んでいたから、一緒のにした。
普段座った事のないようなふかふかのソファに座って、難しそうな話をしながら出てきたままのコーヒーをすする二人。
真似して飲んでみたらびっくりするぐらい苦くて、ミルクと砂糖をいっぱい入れる。
甘くないコーヒーが飲めるようになったら、大人に一歩近づくのかもと思った。
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