Dear Hero
「依…よかった無事でいて…」


少し疲れたような感じはあるものの、思っていたより元気そうで安心した。

マフラーで包んだまま、身体ごとゆっくりとこちらを向かせる。
泣きそうな顔で、目線はこちらを向いてはくれない。


「依、なんでこんな所にいるんだよ。その格好…ここで働いてるのか…?」
「………」
「体触られたりとか、嫌な事されてない?」
「………」
「もしかして…あいつに言われてやってんの…?」
「………」
「……っ」

黙る依に我慢ができなくて腕を引く。

「行くぞ。うちに帰ろう」
「待っ…やだ、だめ!行けない!」
「なんで…っ。こんなの無理やりにだろ!?」
「でもだめなの…!私がここで働かないと…ママが…」
「あいつが…なんだっていうんだよ!」
「私が頑張らないと…ママと一緒に暮らせないから…っ!」
「……っこんな事までしてあいつと暮らしたいのか!?」
「だって…!ママが……ママには私しかいないって…」
「………っ」
「ママが……私を必要としてくれてるから…だから、行けない…」


俺の服を掴んで目に涙を浮かべて訴える依。


「それ…お前の望んでる“必要”じゃないと思う…」
「……っ」
「お前……あいつに利用されてるんだよ…」
「……っそれでもいいの!だって…今私が頑張らなかったら…また…置いてかれちゃうから……」
「………」
「もう……置いていかれるのは嫌だから……」
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