Dear Hero
「……あれ?大護くん?」


頭を垂れていると、聞き慣れた声が聞こえた気がした。
勢いよく顔を上げて声の主を探すと、「こっちこっち」と笑顔と共に現れた。

「……樹さんっ!」
「大護くんも見送りに来てくれたんだ。…あれ、制服?学校は?」
「今日…出発って聞いたから…」
「あぁ、それにしても早いね」
「時間…知らなくて……ていうか、樹さんに電話したのに!」
「ごめんごめん、運転中だったんだよ。俺も着いた後折り返したんだけど、大護くん出てくれないし」
「え、うそ…」

慌ててポケットから携帯を取り出すと、“不在着信:1件”とディスプレイに表示されていた。
走り回っていた時、気づかなかったんだ…。


「…ねぇ樹さん!依は!?」
「え、依ならあっちに…」



樹さんの指差す先に、行き交う人の間から、見覚えのあるコートを着て手すりに寄りかかって立つ依の後ろ姿が見えた。


「依……っ!」


人ごみを掻き分けて走る。
大きなキャリーケースとたくさんの人たちが、依の傍へ行くのを邪魔しているみたいだ。


「依!」

もう一度名前を呼ぶと、声が届いたのかゆっくりとこちらを振り向く。

「…っ!大護く……わっ」

驚く依を夢中で抱き締めた。
もう、どこにも行ってしまわないように。


「よかった、間に合った」


まだ、小さく切れている息。
依の肩に頭を預けて息を整える。


「大護くん、私……」
「…お前、俺に合わせる顔がないってなんだよ」
「だ、だって…私、何度も大護くんにひどい事を…」
「ほんとだよ。忘れろって言われたり、拒絶されたり、選んでもらえなかったり。もう俺はいらないって言われたような気がした」
「それは……」
「……すっげぇ傷ついた。めちゃくちゃショックだった」
「………」
「でも……依がいなくなる方がずっとつらい…」
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