Dear Hero
いざ、市場調査
期末テストも終わり、後は夏休みを待つだけという一学期最後のホームルーム。
毎年恒例の夏休み中の注意や課題の説明を終えた担任は、学級委員の二人を呼ぶ。

「じゃ、俺からの話はここまでで、あとは学級委員にバトンタッチな。夏休み前に文化祭の実行委員決めておけよ〜」

呑気に教卓から離れる担任と入れ替わるように、教室の前に立つのは孝介と水嶋。
今までもこんな光景は何度もあったはずなのに、それでも水嶋の存在を知らなかった自分が不思議なくらい。


そんな中、俺は次の事態に備えてそわそわし始める。

「みんなわかってるとは思うけど、10月に文化祭があります。今日はその実行委員を二人決めたいんだけど、立候補者は…「はい!!」

孝介が話し終わらぬうちに勢いよく立ち上がり手を上げたのは、俺。

「俺!俺実行委員やります!やりたい!!」

鼻息荒く右手をピンと真上に上げて主張する俺の周りから聞こえるのは、くすくすという笑い声。

「澤北ー。お前また演劇で特撮ショーやるとか言うんだろー」
「え!なんでばれてんの!?」
「去年、澤北くんと同じC組だった子が言ってたよー。特撮ショーやりたいって言って瞬殺されたって」
「あ、それ私も聞いた!子どもみたいで可愛かったって!」
「こども…」
「今年もそれ狙ってたんだろー」
「ガキじゃないんだからさー澤北ー」
「ないない。演劇はともかく、特撮ショーなんて子どもにしかウケないよー」

クラス中からの失笑とブーイングで、今年も俺の夢がはかなく散った事を悟る。
なんだよあいつら、知ったように言うけど俺はお前らの事なんて知らんぞ!
しょぼんと小さくなってすごすごと椅子に座り直す俺。
せめてニセモノでも、形だけでもヒーローになれないのなら、実行委員なんてやる意味もない。
辞退の意思を示すために前を向き直すと、静かに手を上げる水嶋の姿。
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