秋の月は日々戯れに
「朝から元気だな……」と誰かが呟く声を聞きながら、彼は受付の前を通り過ぎる。
状況が掴めぬまま取り残されたもう一人の受付嬢が、我に返ったように挨拶を再開する声を背中に聞きながら、彼はエレベーターを待つ列に並んだ。
「さやかさん!止まってくれないと、私のタイトなスカートがチャイナ服みたいになってしまいます!セクシーなスリットが入ってしまいますよ!!」
エレベーターに乗り込む直前に受付嬢の叫び声が聞こえ
「じゃあ追いかけて来なければいいでしょ!!」
叫び返す同僚の声を最後に、エレベーターの扉が閉まった。
狭苦しいエレベーターの中、若い男性社員達が“セクシーなスリット”という部分にざわつく。
そのざわめきに、女性社員が冷たい視線を送るという何とも言えない空気の中、彼は無心でエレベーターの階数表示を眺めた。
ようやく開いた扉から吐き出されるように外に出ると、一緒に降りた社員達が早々と自分の持ち場に散っていく。
そんな中で、彼だけは立ち止まったままふうっと息を吐いた。
「なんだかな……」
思えば、近頃心の休まる日がない。