秋の月は日々戯れに
そう言って、泣きそうな顔のままで、同僚は笑った。
そんな二人のやりとりをジッと見つめていた彼の手に、不意に冷たいものが触れる。
ビックリして前に向き直ったら、彼女がやかんを指差していた。
「お湯が沸きますよ」
確かに、やかんの蓋が微かに揺れている。
「それに、隣に愛すべき妻がいるというのに、他の女性に興味津々とはどういうことですか」
この緊迫しきった空気の中、よくもそんなとんちんかんな事が言えたものだと内心思いながら、彼は小さくため息をついた。
それから、コーヒーの粉が入ったカップの中に、やかんのお湯を注いでいく。
とぽとぽと音がして、苦くてちょっぴり酸っぱいコーヒー独特の香りが漂う。
「自分に自信がない。だから、自分よりずっと優れているように見える人が近くにいると、大好きな人の気持ちすら疑ってしまう」
ポツポツと、唐突に彼女が呟いた。
「でも、自分に自信満々な人なんて、この世界に一体どれくらいいるのでしょう」