One Night Lover
思い出させてあげようか?
竜も華乃の顔を見てすぐに気がついた。

あれはもう5年近くも前のたった一夜の相手だが、
酔っ払っていたとは言え、
華乃との情事は鮮明に覚えている。

もともと大人っぽく見えた華乃は5年前と少しも変わっていなかったが
前より色香というモノを感じる。

あの後、華乃からの連絡を待ったが
華乃から一度も連絡して来なかった。

その事に竜はホッとするというより
プライドを傷つけられた気分だった。

行きずりの相手と簡単に寝たくらいだから
初めて相手は多分誰でも良かったんだろうが
竜は今までとにかくモテた。

普通の女だったら単なるワンナイトスタンドの相手としては惜しい男だと思うはずだ。

しかも初めての相手がこんないい男なんて華乃にとったら光栄な事、ぐらいに竜は思ってる。

それなのにこの女ときたら
連絡先まで残してやったのにもかかわらず知らん顔とはとんでもない女だとかなり根に持っていた。

今まで連絡先を教えた女から連絡が来ない事など一度たりともなかった竜にとって
自分が他の男を忘れる為のただの道具でしかなかったことは華々しい竜の人生の中で
最も屈辱的な出来事だった。

一人一人自己紹介をして新しい宣伝部の部長に挨拶をする。

華乃の番になり
目も合わせずに挨拶する華乃を見て
華乃も自分に気がついてると竜は確信した。

「池田華乃です。

宜しくお願いします。」

「池田さん、この部で一番新人の君にお願いがあるんだけど…
荷物の整理を手伝ってもらえるかな?」

華乃は課長に促されて、仕方なく竜の後について部長室に入った。

「じゃあこの本をそこにある本棚に並べてくれるか?」

華乃は竜が自分に気がついてないんじゃないかと思って一瞬、ホッとした。

さすがに5年も前にたった一夜だけ相手をした女の顔など覚えてるわけがないと思った。

こんないい男ならああいった事はきっと日常茶飯事なのだと華乃は勝手に思いこんだ。










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