One Night Lover
華乃は黙って本を並べた。

何となく背後から視線が刺さる気がして振り向くと
竜はジッと華乃を観察していた。

華乃は焦って目を逸らし、
また本を並べ始めた。

「池田華乃さん。

どこかで逢いませんでしたか?」

華乃の手が一瞬止まった。

「あ、えっとー、会ったこと無いと思います。」

華乃の口から咄嗟に嘘が飛び出して
竜は華乃の背後から本棚に手をかけた。

華乃の身体は硬直した。

「気がついてるよな?

ワンナイトエンジェルさん。」

華乃が振り向くと竜の顔が目の前にあった。

「あの、あ、すいません。

あの日のことはあんまり覚えてなくて…」

嘘だとすぐにわかるような返事をして
竜がクスッと笑った。

華乃は竜と目が合った時かなり動揺していた。

「覚えてない?

思い出させてあげようか?」

華乃はあの日、クラブの片隅で竜とキスしたことを思い出してしまう。

苦しくなるほど胸の鼓動は早くなって
華乃は息をするのがやっとだった。

「わたしとは…あの夜だけだったんでしょう?

忘れてもらえませんか?」

竜は逃げる獲物ほど追いかけたくなる。

「初めての男なのに随分と冷たいんだな?」

華乃の顔は真っ赤になって今にも泣き出しそうだった。

竜はその困った顔が可愛くて
華乃にいきなりキスをした。

逃げようとする華乃の両手首を掴んで
華乃は身動きできないまま
あの日みたいに竜と熱いキスをした。


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