One Night Lover
竜はバスルームに入ると動揺していた。

汚れたシーツに気が付いて急いでバスルームに逃げてきた。

はじめてとは気が付かないフリでクールにベッドから降りたが心の中では

(まさか…初めてだったのかよ?

どうすんだよ。)

と自問自答した。

知らない相手とはいえ何となく気が重くなった。

それにしてもいくら酔ってたとはいえ、初体験をどこの誰とも知らない男に捧げるなんてどうかしてると竜は思った。

可愛くて胸もそれなりに大きくてちょっと好みのタイプだった。

(そんなに若くは見えなかったけど…まさか未成年じゃないよな?

いや、酒飲んでたし、クラブに入るとき、身分証をチェックしたはずだ。)

それでも竜は心配になって頭を抱えた。

シャワーを浴びて部屋に戻ると
さっきまで愛し合ってた女が無邪気な顔で眠っている。

「ま、いいか。可愛いし…」

竜はその寝顔に癒される。

男を知り尽くしてる女よりずっと可愛いと思った。

今日、ずっと付き合ってた女が自分の親友と籍を入れると聞いた。

彼女が別れを切り出したのは
たった1ヶ月前のことだ。

まさか1ヶ月後によりにもよって自分の親友と結婚するなんて女なんか信じられないと思った。

きっと自分と別れる前から2人は出来てたんだろうと思って浴びるほど酒を飲んだ。

酔って踊ったクラブで同じように酒を浴び、
ヒールの靴を片手に裸足で踊っていた彼女と引き合うように目があって声をかけた。

同類相憐れむ…そんな感じだった。

手軽に遊ぶつもりだけだったが
初めてとなるとそうもいかないようだ。

男は携帯で時間を確かめようとして
何件も兄から不在着信があったのに気づいた。

(こんな遅くに何だろう?)

急用だと思って折り返した。

「もしもし、竜か?

なんで出ないだよ!」

「こんな夜更けになんだよ?」

「親父が倒れて手術中だ。

緑ヶ丘中央病院だ。すぐ来れるか?」

「わかった。」

竜は急いで服を着て出ようとしたが
初めてだったこの女をこのまま素知らぬ顔で置いていくのは申し訳なくて
ベッドの横にあるテーブルにメモを置いた。

〈ごめん、急用で先に出る。よかったら連絡して。

藤ヶ瀬竜 090-xxx-xxxx〉

「これでよし。」

竜はあどけない顔で眠る女の頰にキスをした。

「またな。」

そして部屋を出て行った。




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