あづ
この会への出席が大学卒業以来になるわたしは、受付を済ませるとすぐに、斉藤菜々美らの常連軍団に取り囲まれたので、あづ のそばに行くことはできなかった。それでも、壇上で延々と述べられる祝辞を聞く振りをして あづ の様子をうかがっていた。彼女は、誰にともなく笑っていた。「きみは、第何期かね」と笑顔で近づいてくるおじさま方を上手にかわし、そしてときどきデザートを取りに行ってはまた同じ位置に戻って、を繰り返していた。



「あっという間よね」を繰り返した菜々美の話が、会わなかった4年間を一巡したらしく、ついに高校時代の話にまで遡ったので、


「なつかしいね」


などと言いながら一歩二歩と後ずさった。いつのまにか上下の学年も加わり10人以上になっていた輪をそっと抜けて、相変わらず壁際で果物をつついている あづ へ近づいた。


あづ、


「おー! あづ、久しぶり」


声を出そうとした瞬間、ふいに、わたしより一歩手前にいた大石くんが あづ に声をかけた。


大石くん、いたの。わたしは腹が立った。それにあんたが気安く あづ なんて呼ばないでよ。平井さんって呼びな。


「ワイン、飲まないの。今日のはいいやつ出てるらしいよ」

「大石かぁ。すっかりイイ青年になっちゃったじゃないの」


あづ はゆっくり笑顔を作った。


「……」


わたしなら、笑えないよ。あと数歩のところから動けずそのやりとりを見ていて胸が痛んだ。自分のことではないのに。


と、次の瞬間、あづ が大石くんに向けた笑顔をそのまま、固まっていたわたしに向けた。


「真理ちゃん、久しぶり」


傍観していたところに急に役を振られて慌てた。


「……あづ、久しぶりだね。そのマンゴー、レモンかけるとおいしいよ」


動転して、半年ぶりに話すというのに、どうでもいいことが口から出る。


大石くんは、わたしの登場に相当不服であったろうけれど、それは6年前と比べたら驚くほど上手に隠されていた。



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