あづ
「大石くんも、本当にお久しぶりです」


イイ青年になった大石くんの笑顔は、わたしのお邪魔くらいでは崩れない。


「天野は、日置、になったんだっけ? 久しぶり。いや、おめでとう。なんか、どう呼んでいいのか迷うな」


卒業以来だというのに、常連軍団から仕入れたのか、新しい苗字まで知られていた。


「アマノでいいよ」


今日限り、また当分会わないし。


後半を飲み込んで、笑いかけた。


「あづ は、結婚式以来だね。あの時は来てくれてありがとね」

「いやこちらこそ呼んでくれてありがとう。オクサマは板についたかね」


あづ の体はもう完全にわたしのほうに向いていたので、わたしのほうも、意地悪くそれに乗った。この構図は、まるっきり高校のときと同じだ。が、同時に大石くんも健在だった。


「天野の式はいつだったの? あづ は呼ばれたのかぁ」


必死に食いついてくる。さっきの感嘆を忘れて、やっぱり人って変わらない、と思った。あのときは、チッと舌打ちされたのだけれど。あれは一生忘れてやらない。


「もうずいぶん経つよねぇ、いつだっけ」


あづ は体の向きを変えることなく、「半年前」をなかなか言わずに済ませた。結構前よね、と綺麗に笑う。


――気付けよ、自意識過剰なくせに無神経のバカ男。


18歳の あづ の声が聞こえる。


記憶がどんどん蘇ってくる。楽しい。こんな状況でそう思ってしまうなんて、わたしもたくましくなったものだ。



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