お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「えっ、あの、ちょっと待って……」


 三時間寝れば十分だと言う人が、八時間ベッドにいるということは、五時間はいったい何の時間になるのだろう。
 龍一郎のいいたいことはわかるが、さすがに受け入れがたい。


「それはいくらなんでも……死んでしまいます……」


 澄花はアワアワなりながら、龍一郎の目から逃れるように、ぎゅっと目をつぶった。
 死ぬというのは比喩ではない。今晩、たった一度抱かれただけだが、自分がそういう目にあいそうなことくらいは何となくわかる。


「抱いている最中に、妻に、『死ぬ』と言われるのは本望だな。興奮する」


 なのに龍一郎はどこか楽しそうにそんなことを口にした。


「い、いやそういう意味ではなくて!」
「じゃあどういう意味だ」
「いや、そう遠くない意味かもしれないですけど……死ぬって言わせないでほしいと言うか、ああっ、変なこと言ってごまかそうとしないでくださいっ……」


 澄花は頰を朱に染めながら、目を開けると、龍一郎の胸に両手を置いた。


< 107 / 323 >

この作品をシェア

pagetop