お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 隅まですべて窓になっている長い縁側の廊下は、いつもきれいに磨かれている。そこに龍一郎の養母である由香子が、ガラスの器に冷たいお茶を注いで待っていた。


「なにもあなたが草刈りなんかしなくてもいいのに」


 由香子はきれいに切りそろえたボブカットの、おっとりした雰囲気の女性だ。葛城グループの社長夫人だが、まるでそんな気取ったところのない、笑顔のかわいらしい女性である。
 養父は子供の頃から、母親である琴乃とうまくいっていなかったという話を聞いてから、なぜ養父がこの女性を妻に選んだのか、わからないでもないと思う。
 ちなみに今日も、遊びに来た澄花が急に草むしりをしますと言い出して、笑いながら、少し手伝ってくれたのだった。


「そうなんですけど、気になったらつい手をつけたくなってしまって」


 澄花は笑って由香子が淹れてくれたお茶をゆっくりと口に含む。
 冷たいお茶が口の中をすっきりさせ、喉を落ちていく。火照った体に染み渡る美味しさだった。


「とても美味しいです」
「そう? よかった」


 由香子はころころと笑って、そして縁側に面している和室を振り返った。


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