お気の毒さま、今日から君は俺の妻

「野菜は俺が洗いますよ」


 エプロンをつけ終わった基が隣に立つ。


「ありがとうございます。ではお願いします」


 澄花は野菜が入ったかごを基にバトンタッチして、横に一歩ずれる。

 その時、見るつもりはなかったのだが、基の腰のあたりで結ばれた紐が揺れているのが目に入った。


(あっ、結び目が縦になってる……!)


 内心そう思ったが、自分が口を出すことではないので、こみ上げてくる笑いをグッとこらえて包丁を握った。


(ここに龍一郎さんがいたらどうしたかな……? 器用だから、蝶々結びはできそうだけど……)


 龍一郎もやはり基と同じように、生まれて一度も包丁を握ったことがないタイプだ。
 そして家事は全て外注でもいいというくらいだし、特にこだわりも感じない。
 だが澄花が作る慎ましい料理は、まるで三ツ星レストランのシェフが作ったかのように絶賛し、あれやこれやと褒めたたえるので、聞いているとたまに恥ずかしくなる。


(龍一郎さん、褒めなきゃって感じではないのよね……純粋に『澄花はすごい』って感心されてるから、なんだかそわそわするし……嬉しいけど)


< 305 / 323 >

この作品をシェア

pagetop